書評
『地方消滅 - 東京一極集中が招く人口急減』(中央公論新社)
後回しできない衝撃的事実
人口減少社会を論じたこの本の中で最も深く突きつけられたのは、日本人は撤退戦が下手という指摘だ。「臭いものには蓋(ふた)」で、都合の悪いデータに対して最善の策を練るのではなく、飲み込んで後回しにする。太平洋戦争末期のことにとどまらない。夏休みの最終日、慌てて宿題に取りかかった経験はないか?本書の題名は『地方消滅』。遠い先の話でも大げさな表現でもない。客観データに基づいた事実。具体的には「2010年から40年までの間に『20〜39歳の女性人口』が5割以下に減少する市区町村数」が全国の自治体の約5割にのぼるというデータが根拠。数にして896自治体が存続の危機に立たされることになる。
本書がヒットしているのは、多くの人がその衝撃的な事実に顔を背けていられないという認識を持ったからだろう。
地方の人口減の一方で進行するのは、大都市への一極集中。これを受け入れる考え方もある。実際、日本は田中角栄の時代以降、ばらまきや交付税で地方の延命に奔走してきた。本来であれば、都市化はもっと加速していたはずだ。人口集積は経済を活性化し、無駄な社会コストも切り捨てることができる。だが本書は都市化の未来も否定する。都市に人口を供給するのは地方。供給元の消滅が、やがて大都市部にも人口減をもたらす。
本書が提示する撤退戦の戦術は、地方の中核都市に「選択と集中」で雇用と公共サービスを割り振り、若者の流出を食い止めるというもの。裏を返せば、多くの自治体が消滅を突きつけられることは変わらない。
本書には、地方活性化の事例がいくつも挙げられているが、その事実だけは覆らない。撤退戦の苦手な国民がどうこの問題に対処すべきか。まずは事実を認め、向き合うことが初めの一歩だ。
朝日新聞 2014年10月19日
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