解説
『のんきに島旅』(河出書房新社)
島が好き
島がある。そう考えるだけで、腰のあたりがうずうずし、「こうしちゃいられない」
気持ちになる人がいる。二十代の私も、そうだった。天気予報の地図で、伊豆諸島や小笠原諸島を見るたび、
(いったいどんなところなのか)
と思っていた。
のちに三十時間近く船に乗って、着いたそこでは、新聞が一週間ぶん袋詰めされまとめて届くのにびっくりし、はじめて口にするカメ肉がおいしいのかどうか判断に迷い、品川ナンバーの車が走っていることに、あっけにとられた。これが、同じ東京都なのだからなあ、と。
そして、ここにもひとり。『のんきに島旅』(河出文庫)の著者、本山賢司さんである。
北海道に生まれ育ち、『ロビンソン・クルーソー』や『十五少年漂流記』にはまった「元」少年は、南の島に行くほどのお金がない現実に気づき、日本地図を広げてみて、おおっと、身を乗り出した。島なら、たくさんあるじゃないか、すぐ近くに。
そう、旅人にとって、島はパスポートの要らない別世界。なんて言うと、住んでいる人には悪いけれど。
貧乏旅行は、神津島、八丈島からはじまった。低気圧で船はさんざんに揺れ、無一文になったときは、鰻ならぬウツボの蒲焼きを、焚き火でこしらえサバイバル。長けりゃいいってもんじゃない?
「物好きな。苦労しにいくようなものではないの」と呆れる人もいるだろう。でも、想像してみてほしい。「アマツバメが羽虫を追い、めまぐるしく飛びかう快晴の頂上に立つ。眼下は島を中心に海が広がる、パノラマの世界」、そこで深呼吸する自分を。気分は「新天地に踏み込んだ開拓者」、たとえこの世に一坪の土地も所有しなくても、だ。
私が羨ましいのは、本山さんは絵が描けること。それから、本書のいたるところからわかるように、野外生活の術も持っている。それ(に、プラスお酒?)さえあれば、いつでもどこへでも漂泊ができるではないか。
島のようすは、本山さんがはじめて訪ねたときとは、ずいぶん変わった。灯台ができ、大型船が入れる港ができ、ところによっては空港までできた。けれども、変わらぬものがある。上下する波が桟橋を打つリズム。あるいは、あおむけに寝転がった背中に、日差しに温められたコンクリートから伝わってくる、ほどよいぬくもりと「身体が宙に浮いているような感覚」。
その感覚は、たぶん「自由」に似ている。ほんとうの「不自由」をまだ知らない私にも、ちょっとわかる。
あの広々とした心地よさを味わいたくて、人は懲りずに、くり返し島旅に出るのだろう。
【この解説が収録されている書籍】
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