書評

『記憶する体』(春秋社)

  • 2019/12/13
記憶する体 / 伊藤 亜紗
記憶する体
  • 著者:伊藤 亜紗
  • 出版社:春秋社
  • 装丁:単行本(280ページ)
  • 発売日:2019-09-18
  • ISBN-10:439333373X
  • ISBN-13:978-4393333730
内容紹介:
経験と記憶は体に何をもたらすのか。視覚障害、吃音、認知症、幻肢痛など11の例からユニークで可能性溢れる身体論を展開。

自分の中の「他者」と付き合う

起きられない。とにかく痛い。今まで使っていた体が突然、意思に従わなくなる。そうした体とどう付き合えばいいのか。本書で伊藤は考える。

登場する人物は様々だ。そしてその多くが、体の機能や部位を中途で失っている。まずやって来るのは絶望だ。だが、生きることを選んだとき、彼らの探求は始まる。

例えばバイク事故で片腕の神経を切断した森さんは「人間をやめる」ことにする。なぜこうなったのか。他の人にできることがなぜできないのか。普通に生きるとは、そうしたことを考えて生きるということだ。

だが山にこもった彼は、禅に学びながら「なぜ」を問う心の動きを止める。そして手負いの動物のように、「ただ生きる」ことにする。自分をコントロールしない。他人と比較しない。辛いとも辛くないとも考えない。そうした態度を「セルフセンター」と彼は呼ぶ。

あるいは、神経の難病で常に体が痺れているチョンさんはどうか。何かをしようと考えすぎるとできなくなる。だからなるべく意識しない。そうやって、自分の体の予測できない反応を観察しながら、少しずつ体の使い方を発明していく。彼は言う。「できないことを考えてふさぎこむんじゃなくて、今できることは何なんだろうと考えたら、いろいろ物事が動き出して、外にも出られるようになりました」

他人は思い通りにならないことは僕らも知っている。でも、自分だって思い通りにはならない。意欲はなかなか湧かないし、記憶は勝手に甦る。面倒くさいけど、この体に生まれてきた以上、どうにか付き合っていくしかない。

だからよく観察する。お願いする。少しでもできたら大いに褒める。なんだ、これって他人との付き合い方と一緒じゃないか。人に寛容になるには、まず自分に寛容になること。この本を読んで納得できた。
記憶する体 / 伊藤 亜紗
記憶する体
  • 著者:伊藤 亜紗
  • 出版社:春秋社
  • 装丁:単行本(280ページ)
  • 発売日:2019-09-18
  • ISBN-10:439333373X
  • ISBN-13:978-4393333730
内容紹介:
経験と記憶は体に何をもたらすのか。視覚障害、吃音、認知症、幻肢痛など11の例からユニークで可能性溢れる身体論を展開。

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初出メディア

朝日新聞

朝日新聞 2019年11月16日

朝日新聞デジタルは朝日新聞のニュースサイトです。政治、経済、社会、国際、スポーツ、カルチャー、サイエンスなどの速報ニュースに加え、教育、医療、環境、ファッション、車などの話題や写真も。2012年にアサヒ・コムからブランド名を変更しました。

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