書評

『短篇集ダブル サイドA』(筑摩書房)

  • 2020/04/02
短篇集ダブル サイドA / パク・ミンギュ
短篇集ダブル サイドA
  • 著者:パク・ミンギュ
  • 翻訳:斎藤 真理子
  • 出版社:筑摩書房
  • 装丁:単行本(ソフトカバー)(300ページ)
  • 発売日:2019-11-29
  • ISBN-10:4480832122
  • ISBN-13:978-4480832122
内容紹介:
韓国人気実力派作家の短篇集。奇想天外なSF,現実的で抒情的な作品など全9篇。李孝石文学賞作品収録。二巻のどこからでもどうぞ。
ガンの宣告を受ける。もう助からないという。田舎町からソウルに出て大学に行き、就職して、結婚もせずに十五年間ひたすら頑張ってきた。ならば自分は何のために生きてきたのか。

休職し故郷の町に戻る。三十年前に友人と埋めたタイムカプセルを掘り返す。中には、ベトナム戦争帰りの叔父さんがくれた、軍用の羅針盤が入っていた。もう人生の方向なんてとっくに見失ってしまったのに。

懐かしいみんなは、流れた時間分老けたまま、相変わらずでいてくれた。彼らと酒を酌み交わしながら、主人公は久しぶりの温もりを感じる。

そしてスニムだ。主人公は彼女に、少女時代の面影を見る。独身の二人はおずおずと近づく。五月の川沿いの道を歩く。繫いだ手に力が入る。

お互い今まで、いろんなことがあった。それでも今、自分は幸せだと言えるんじゃないか。「一瞬であっても/一人じゃないというあの気分が僕は、嫌ではなかった」

本短篇集の冒頭に収録された「近所」は切ない。それは読者の誰もが、主人公に自分の姿を見てしまうからだ。あくせく働いて、気づけば月日が流れ、遠いと思っていた死に突然向かい合うことになる。

でもそれだからこそ、ほんの少しの温かさが限りなく尊い。著者は言う。「最近は人間自体がマイノリティだと思う。誰もが不幸を抱えた、気の毒な存在ではないか」

パク・ミンギュの作品は、人間の弱さにそっと寄り添ってくれる。それは、長篇『ピンポン』『亡き王女のためのパヴァーヌ』でも変わりない。だから彼の作品は信用できる。

本書には、SFやファンタジーなどを含む多様な短篇が収録されている。その全ての作品において、登場人物たちは精一杯苦闘し、死んでいく。そして読者は彼らと共に生きる意味を探す。韓国文学の最良の成果がここにある。
短篇集ダブル サイドA / パク・ミンギュ
短篇集ダブル サイドA
  • 著者:パク・ミンギュ
  • 翻訳:斎藤 真理子
  • 出版社:筑摩書房
  • 装丁:単行本(ソフトカバー)(300ページ)
  • 発売日:2019-11-29
  • ISBN-10:4480832122
  • ISBN-13:978-4480832122
内容紹介:
韓国人気実力派作家の短篇集。奇想天外なSF,現実的で抒情的な作品など全9篇。李孝石文学賞作品収録。二巻のどこからでもどうぞ。

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初出メディア

朝日新聞

朝日新聞 2020年2月15日

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