書評

『ストーリーテリングの科学 脳と心をひきつける物語の仕組み』(フィルムアート社)

  • 2026/03/24
ストーリーテリングの科学 脳と心をひきつける物語の仕組み / ウィル・ストー
ストーリーテリングの科学 脳と心をひきつける物語の仕組み
  • 著者:ウィル・ストー
  • 翻訳:府川由美恵
  • 出版社:フィルムアート社
  • 装丁:単行本(ソフトカバー)(352ページ)
  • 発売日:2025-12-26
  • ISBN-10:4845924145
  • ISBN-13:978-4845924141
内容紹介:
人間はなぜ「物語」を求めるのか?すぐれた物語はいかに脳を刺激するのか?脳科学・心理学の知見を生かせば、ストーリーはもっと魅力的に語れる!イギリスで大人気のライティング講師が解… もっと読む
人間はなぜ「物語」を求めるのか?
すぐれた物語はいかに脳を刺激するのか?

脳科学・心理学の知見を生かせば、ストーリーはもっと魅力的に語れる!
イギリスで大人気のライティング講師が解き明かす、共感を生む創作の秘密

人は物語によって他者とつながり、相互に監視し、ときに対立もしてきました。
物語は、小説や映画にかぎらず、新聞からゲーム、歌、夢の中まで、社会のあらゆるところに存在しています。
「われわれを人間たらしめるのは物語である」「物語はわれわれだ」と著者は言います。
では、物語を求める人間、そして人間が求める物語の本質とは、どのようなものなのでしょうか?
本書は、脳科学・心理学から人間/物語の秘密を解き明かしていく、まったく新しいストーリーテリング論です。

一番の特徴は、プロット重視の従来的な物語理論とは対照的に、キャラクターをストーリーテリングの中心に据えていること。
魅力的なキャラクターを作るうえでカギとなるのは、キャラクターの〈欠点〉。
それも、自分が正しいと思い込んでいる〈信念〉こそが、キャラクターを唯一無二にする欠点なのです。
私たちの知覚や認識をつかさどる脳は、実は不合理な進化を遂げた「信頼できない」存在。
都合のよい事実だけを取り入れ、それに反するものは退けることで、自分をヒーローに仕立て上げてしまいます。
自分が信じるものの致命的なまちがいを認識し、自分を変えようとするのは至難の業。
しかし、それを成し遂げ、「自分は何者なのか?」「何者になるべきか?」という問いに答えを出そうとするキャラクターが、プロットの原動力となります。

本書ではこのように、人間の脳と心に注目して、共感を生む物語のしくみを徹底解剖。
創作の開始時点から使える実践的な付録も収録し、よりよいストーリーテリングの秘密を余すところなく伝授します。
小説や映画にかぎらず、マンガ、ノンフィクション、エッセイ、ゲームや動画の制作からビジネスシーン、そして日常的な雑談まで……
すべての〈物語の語り手〉に読んでほしい一冊です。

===

人の脳は、この恐ろしい真実からわれわれの目を逸らさせるべく、希望ある目標で人生を埋め、そのために努力するよう励ましてくれる。われわれの欲しいもの、それを手に入れる闘いの紆余曲折が、すべての人々の物語となる。物語が人々の存在に意味という幻影をもたらし、恐れから目をそむけさせる。[…]物語はどこにでもある。物語はわれわれだ。(「はじめに」より)

===

本書の内容をさらに詳しくご紹介!
脳や心のはたらきを知れば、実際の創作にも役立つヒントが見えてくる!

◎私たちは、なぜそうするのか、なぜそう感じるのかを、実は知らない。その理由はすべて、脳がでっち上げた作り話にすぎない──それは物語の登場人物にとっても同じである。

◎現実世界の私たちと同じように、登場人物にも「欠点」が必要だ。他者を含む現実をコントロールするための理論や信念に歪みのある人物ほど、脳の注意を惹きつける。

◎一度完成した世界に対する認識のモデルを、脳は守ろうとする。主人公が自分のモデルを疑い、予想外の行動に出るような「着火点」を物語の始めに置いてみよう。

◎脳は、情報を処理するために、因果関係を作らずにはいられない。因果関係を「語るのではなく見せる」ことで、読者を物語に入りこませよう。

◎狩猟採集の時代から、物語は部族のプロパガンダとして機能してきた。悪い行いを罰し、善い行いに報いたいと思うのは人間の本能だ。物語にスパイスが足りないときは、読者の「道徳的な怒り」をかき立てるものは何かを考えてみよう。

===

著名人からも絶賛の声!
★全世界で15万部突破!/『サンデー・タイムズ』紙ベストセラー

ストーリーテリングを科学的に解き明かす著者のアプローチほどユニークなものはない。経験の程度によらずすべての作家に、作品を深く、より豊かにするための新たな理解を与えてくれるだろう。
──クレイグ・ピアース(脚本家・俳優/『ムーラン・ルージュ』『華麗なるギャツビー』脚本)

本書は、芸術やライティングの科学と同じように、人間の本質についても照らしだしている。すでにもう一度読み直したくてたまらない。
──デビッド・ロブソン(科学ジャーナリスト/『知性の罠:なぜインテリが愚行を犯すのか』著者)

これほどまでに夢中にさせ、いままで読んだもの、書いたものに関する問いを喚起させる本は滅多にない。傑作だ。私は畏敬の念を抱いている。
──アダム・ラザフォード(遺伝学者・サイエンスライター/『遺伝学者、レイシストに反論する』著者)

物語に惹かれていく本性を解き明かす

人間はなぜ物語を必要とするのか? それに対して応答する書物は無数に書かれてきた。本書もその系譜に連なる。しかし従来のように物語に共通のパターンを探りだすのではなく、脳の特徴的な機能や反応などを示しながら、脳が面白がる物語のパターンを特定し、そこから始める。ポピュラーサイエンス寄りの物語論と言える。

カズオ・イシグロはガーディアン紙における『わたしを離さないで』の刊行二十周年記念インタビュー(二〇二五年三月)で、「私たちはみないずれ死ぬ運命にある。それでも、まるで死なないかのような顔をして生きなくてはならない」と語った。

私たちがまるで死なないかのような顔をして生きるための仮想手段の一つが物語だと言える。人間は生まれた瞬間から死にはじめる。ある意味、人の生を象(かたど)るあらゆるアートは死に向かうための準備の一環だということは前にも当欄で書いた。

『ストーリーテリングの科学』の著者ストーはこのように言う。

「どう終わるかを、われわれは知っている。自分も、自分の愛するすべての人々も、いずれは死ぬ」

「宇宙で起きている変化がすべてやみ、星々が死に、そして何もかもがなくなり、ただ無限の、完全な、凍(い)てつく無だけが残る」

「しかしわれわれは、そんなふうに人生を生きてはいない。自分たちなりに、われわれの存在が本質的に無意味なことを知ってはいるが、知らないふりをして生きている」

「この恐怖を癒やすのが物語だ」

イシグロの言葉とも共鳴する名文だと思う。

歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリは、物語こそが人類最古の「情報テクノロジー」だと述べているが、ストーも同様に「石器時代の人々が生きていたころから、言語はもっぱら『社会的情報』の交換をするために進化したと考えられている」と改めて定義している。

つまりは、ゴシップだ。ゴシップという連繋(れんけい)の場から、文学もフィクションも生まれてきた。人間の脳は「物語の加工装置」であって、「論理の加工装置」ではないとストーは言う。

本書は、脳が「いかに自分の内に色あざやかな世界を創造するのか」を検討する第一章、作品の中心となる「欠点のある人物」について見ていく第二章、人間の潜在意識に分け入り、物語がいかにして感情を喚起するかを解く第三章、物語の意味や目的を概観する第四章から成るが、私がいちばん興味深く読んだのは、「神聖なる欠点アプローチ」と題されたかなり長い付録である。

架空人物の「神聖なる欠点」とは、彼らが神聖なものとみなしている、「彼らの壊れた部分」だと言う。イシグロの『日の名残り』の執事スティーブンスは、感情を押し殺した英国人という品格を神聖視していた。ストーは誤った信念がいかに神聖なものと化すかを解説する。

なるほどと思った。それが証拠に、終盤で執事の語りには破れが生じるではないか。イシグロのノーベル文学賞講演によれば、この部分は最初の原稿にはなかった。しかしあるロックシンガーの歌を聴いているうちに、感情の一瞬の吐露が必要だと思い、書き直したのだ。その結果、同作は成功してブッカー賞も受賞し、イシグロは語りの魔術師と呼ばれるようになった。

『ストーリーテリングの科学』は昨今のクリエイティヴ・ライティング講座の興隆に安易に便乗したものではなく、人間が物語に惹(ひ)かれていく本性を解き明かすものだ。とはいえ、やはりゴールは「ひとの共感を生む物語を書くには」という指南であるし、「物語は、愛情にすら比肩できないような魔法の力で、心と心をつなぐことができる」、そして「(ひとは)結局はそこまで孤独ではないのかもしれないという希望こそ、物語の贈り物なのだ」というあまやかなポジティヴシンキングに行き着く。

ハラリの言うとおり、大きな物語は共同体をまとめるためのメディアだったし、いまもそうだろう。そこには「民主主義」や「資本主義」といったイデオロギーも含まれる。

しかし近代以降、文学における物語は小さく個人的なものになってきた。物語をつくり、それを聴くこと、読むことは、有限な命をもつ人間にとって静かな自己との対話であり、その対話から新たな他者とのつながりを模索するものだった。

ところが、SNS全盛時代のいま、物語は他者にアピールしリアクションを誘発することが究極の価値となり、共感というきずな(きずなは本来「束縛」という意味である)がむしろ他者との対話を妨げている面がある。この傾向はコロナ禍という人類引きこもりの時期に急加速し、AIによるアルゴリズムによって増長されている。

本書の原書刊行は二〇一九年。過去の講座の加筆再録も含むとのこと。この七年ほどで、ひとの関心を引き、ひとを動かす方法は劇的に変化し、それに対する危機感も色濃く醸成されてきたことを実感する。
ストーリーテリングの科学 脳と心をひきつける物語の仕組み / ウィル・ストー
ストーリーテリングの科学 脳と心をひきつける物語の仕組み
  • 著者:ウィル・ストー
  • 翻訳:府川由美恵
  • 出版社:フィルムアート社
  • 装丁:単行本(ソフトカバー)(352ページ)
  • 発売日:2025-12-26
  • ISBN-10:4845924145
  • ISBN-13:978-4845924141
内容紹介:
人間はなぜ「物語」を求めるのか?すぐれた物語はいかに脳を刺激するのか?脳科学・心理学の知見を生かせば、ストーリーはもっと魅力的に語れる!イギリスで大人気のライティング講師が解… もっと読む
人間はなぜ「物語」を求めるのか?
すぐれた物語はいかに脳を刺激するのか?

脳科学・心理学の知見を生かせば、ストーリーはもっと魅力的に語れる!
イギリスで大人気のライティング講師が解き明かす、共感を生む創作の秘密

人は物語によって他者とつながり、相互に監視し、ときに対立もしてきました。
物語は、小説や映画にかぎらず、新聞からゲーム、歌、夢の中まで、社会のあらゆるところに存在しています。
「われわれを人間たらしめるのは物語である」「物語はわれわれだ」と著者は言います。
では、物語を求める人間、そして人間が求める物語の本質とは、どのようなものなのでしょうか?
本書は、脳科学・心理学から人間/物語の秘密を解き明かしていく、まったく新しいストーリーテリング論です。

一番の特徴は、プロット重視の従来的な物語理論とは対照的に、キャラクターをストーリーテリングの中心に据えていること。
魅力的なキャラクターを作るうえでカギとなるのは、キャラクターの〈欠点〉。
それも、自分が正しいと思い込んでいる〈信念〉こそが、キャラクターを唯一無二にする欠点なのです。
私たちの知覚や認識をつかさどる脳は、実は不合理な進化を遂げた「信頼できない」存在。
都合のよい事実だけを取り入れ、それに反するものは退けることで、自分をヒーローに仕立て上げてしまいます。
自分が信じるものの致命的なまちがいを認識し、自分を変えようとするのは至難の業。
しかし、それを成し遂げ、「自分は何者なのか?」「何者になるべきか?」という問いに答えを出そうとするキャラクターが、プロットの原動力となります。

本書ではこのように、人間の脳と心に注目して、共感を生む物語のしくみを徹底解剖。
創作の開始時点から使える実践的な付録も収録し、よりよいストーリーテリングの秘密を余すところなく伝授します。
小説や映画にかぎらず、マンガ、ノンフィクション、エッセイ、ゲームや動画の制作からビジネスシーン、そして日常的な雑談まで……
すべての〈物語の語り手〉に読んでほしい一冊です。

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人の脳は、この恐ろしい真実からわれわれの目を逸らさせるべく、希望ある目標で人生を埋め、そのために努力するよう励ましてくれる。われわれの欲しいもの、それを手に入れる闘いの紆余曲折が、すべての人々の物語となる。物語が人々の存在に意味という幻影をもたらし、恐れから目をそむけさせる。[…]物語はどこにでもある。物語はわれわれだ。(「はじめに」より)

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本書の内容をさらに詳しくご紹介!
脳や心のはたらきを知れば、実際の創作にも役立つヒントが見えてくる!

◎私たちは、なぜそうするのか、なぜそう感じるのかを、実は知らない。その理由はすべて、脳がでっち上げた作り話にすぎない──それは物語の登場人物にとっても同じである。

◎現実世界の私たちと同じように、登場人物にも「欠点」が必要だ。他者を含む現実をコントロールするための理論や信念に歪みのある人物ほど、脳の注意を惹きつける。

◎一度完成した世界に対する認識のモデルを、脳は守ろうとする。主人公が自分のモデルを疑い、予想外の行動に出るような「着火点」を物語の始めに置いてみよう。

◎脳は、情報を処理するために、因果関係を作らずにはいられない。因果関係を「語るのではなく見せる」ことで、読者を物語に入りこませよう。

◎狩猟採集の時代から、物語は部族のプロパガンダとして機能してきた。悪い行いを罰し、善い行いに報いたいと思うのは人間の本能だ。物語にスパイスが足りないときは、読者の「道徳的な怒り」をかき立てるものは何かを考えてみよう。

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著名人からも絶賛の声!
★全世界で15万部突破!/『サンデー・タイムズ』紙ベストセラー

ストーリーテリングを科学的に解き明かす著者のアプローチほどユニークなものはない。経験の程度によらずすべての作家に、作品を深く、より豊かにするための新たな理解を与えてくれるだろう。
──クレイグ・ピアース(脚本家・俳優/『ムーラン・ルージュ』『華麗なるギャツビー』脚本)

本書は、芸術やライティングの科学と同じように、人間の本質についても照らしだしている。すでにもう一度読み直したくてたまらない。
──デビッド・ロブソン(科学ジャーナリスト/『知性の罠:なぜインテリが愚行を犯すのか』著者)

これほどまでに夢中にさせ、いままで読んだもの、書いたものに関する問いを喚起させる本は滅多にない。傑作だ。私は畏敬の念を抱いている。
──アダム・ラザフォード(遺伝学者・サイエンスライター/『遺伝学者、レイシストに反論する』著者)

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初出メディア

毎日新聞

毎日新聞 2026年3月21日

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