書評

『プラヴィエクとそのほかの時代』(松籟社)

  • 2020/03/04
プラヴィエクとそのほかの時代 / オルガ・トカルチュク
プラヴィエクとそのほかの時代
  • 著者:オルガ・トカルチュク
  • 翻訳:小椋 彩
  • 出版社:松籟社
  • 装丁:単行本(367ページ)
  • 発売日:2019-12-01
  • ISBN-10:4879843830
  • ISBN-13:978-4879843838
内容紹介:
2018年ノーベル賞作家トカルチュクの最新邦訳。架空の村プラヴィエクに暮らす人々の日常が、ポーランドの二十世紀を映し出す。

支配者も飲みこむ暮らしの厚み

天使が人々を見守る。死者たちの列が通り過ぎる。森の中を悪い何かがうろつく。けれどもこれは、遠い古代の話ではない。第一次大戦から民主化にいたるポーランドの現代史を、田舎町プラヴィエクの人々が日々見つめ続ける。

中心にあるのはニェビェスキ家とボスキ家で、家族の歴史が一世紀にわたって語られる。だからガルシア・マルケス『百年の孤独』にも近い。もちろん違いはある。マルケス作品に出て来るのはコロンビアの密林だが、本作の森にはたくさんの茸が生えていて、全ては菌糸で繋がっている。

それだけではない。もちろん男性も出てくるものの、強い存在感を示すのは女性たちだ。第二次大戦中、ドイツ軍に占領され、次いでソ連軍のロシア人たちがやってくる。支配者が変わるたびに、ユダヤ人たちは虐殺され、圧倒的な暴力で村全体が廃墟と化す。

それでも女性たちは子どもを産む。女の子なら戦争が終わる徴候だと思う。村人は言う。「みんな娘がほしいわ。もしみながいっせいに女の子を産みはじめたら、世界は平和なのに」

なかでも印象的なのはクウォスカだ。孤児の彼女は裸足で、農作物を盗み、施しを受け、体まで売って生き延びる。村中の人々に蔑まれても、彼女は自分を見下さない。むしろ世界から多くを学びながら、それを自分のなかにしっかり取り入れて成長し続ける。

ナチスの兵士、異国風の顔をしたソ連軍の青年など、村人たちはやって来たすべての人と関わり、感情を交換し、時に愛すら感じる。何年も謎のゲームに興じ続ける領主や、障害で一生働けない男性など、物語の視点は様々な人物に移り変わる。

彼らは歴史に名を残さない。だが毎日の生活のなかにも歴史は入り込み、多くの苦悩を与える。普通の人々の暮らしって、こんなに不思議で悲しく、分厚いんだ。本書を読んで小説の新たな可能性を感じた。
プラヴィエクとそのほかの時代 / オルガ・トカルチュク
プラヴィエクとそのほかの時代
  • 著者:オルガ・トカルチュク
  • 翻訳:小椋 彩
  • 出版社:松籟社
  • 装丁:単行本(367ページ)
  • 発売日:2019-12-01
  • ISBN-10:4879843830
  • ISBN-13:978-4879843838
内容紹介:
2018年ノーベル賞作家トカルチュクの最新邦訳。架空の村プラヴィエクに暮らす人々の日常が、ポーランドの二十世紀を映し出す。

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初出メディア

朝日新聞

朝日新聞 2020年02月01日

朝日新聞デジタルは朝日新聞のニュースサイトです。政治、経済、社会、国際、スポーツ、カルチャー、サイエンスなどの速報ニュースに加え、教育、医療、環境、ファッション、車などの話題や写真も。2012年にアサヒ・コムからブランド名を変更しました。

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