書評
『古くてあたらしい仕事』(新潮社)
読んでくれる人を思って作って売って届ける仕事
自分ひとりで立ち上げた出版社「夏葉社」の10年間を振り返りながら、本を作って届けるとはどういうことなのかを考え続けた一冊。編集も営業も事務も発送作業も経理もひとり。年に3冊ほどの本を作り、時間をかけて丁寧に届けていく。子どものころから、本は「生活の小さな重心のようなもの」だった。本は、ありとあらゆる業界が猛スピードで変化していく中で、そのままの姿をしている。それを「取り残されている」「やがてなくなる」とする人もいるが、「でもぼくは、その本の変わらないところが好きだった。信頼していた、といってもいい」。
山本善行・撰『埴原一亟 古本小説集』、関口良雄『昔日の客』、山下賢二『ガケ書房の頃』など、自分の本棚にある夏葉社の本をめくれば、その「信頼」が見つかる。「読者のレベルが落ちた」などと言いながら、「安直な方へ」「より大きな声のする方へ」流れ、地引き網のように大勢をかっさらう本が「売れる本」になって久しい。 著者が、本屋や本を好きなのは、「強い者の味方ではなく、弱者の側に立って、ぼくの心を励まし、こんな生き方や考え方もあるよ、と粘り強く教えてくれたから」。こういうふうに生きなさい、ではなく、キミがそういうふうに生きているのならば、それでもいいと思う、と静かに支えてくれるものなのだ。
これをすれば、どれくらいの人が振り向いてくれるかという、量や速度を問う仕事はしんどい。その変動ばかりが気になり、その先にいる人間のことを忘れてしまう。「だれかのための仕事は、世の中がどんなに便利になっても、消えてなくなるものではない」、ようやく見えたという著者の結論に嬉しくなる。この本を届けたいと思い、その本を届ける。実直さに打たれた。
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