書評

『住宅道楽―自分の家は自分で建てる』(講談社)

  • 2020/01/21
住宅道楽―自分の家は自分で建てる / 石山 修武
住宅道楽―自分の家は自分で建てる
  • 著者:石山 修武
  • 出版社:講談社
  • 装丁:単行本(246ページ)
  • ISBN-10:4062581043
  • ISBN-13:978-4062581042
内容紹介:
陳腐で奇妙で高価格。地球上最悪の住宅の現実が、日本にある。無の境地をめざす「究極の家」、アライグマと暮らす家、棺桶を模した「ドラキュラの家」、そして「村」と名づけたみずからの住居。「住宅設計戦線」に挑む建築家が、提示する自由な住宅像の数々。「自分の家を自分で建てる」ことの意味と楽しみを、熱く説く。

奇怪な注文主と建築家の奮闘記

もし読者で、地価も下ったことだし、住宅を作る計画を立てようか、なんて考えて、住宅雑誌を手にしてワクワクしている人がいたら、ページを開くまえにこの本を読んでいただきたい(ALL REVIEWS事務局注:本書評執筆時期は1997年)。

現代の日本の住宅はそうとうアヤシイところに来ているのである。その代表がハウスメーカーの作るプレハブ住宅だが、もちろん地震で壊れるとかいうのではなくて、まず価格がアヤシイ。プレファブはかつて大工さんに頼むより安いのをウリにしたが、市場を制覇してからはジリジリと値を上げ、今はけっして安くはない。その高価格も、材料や職人手間からくるのならあきらめもするが、一説によると、宣伝を含めた営業費が価格の三割を占めるともいう。生涯の賃金をはたくにしてはあまりな買い物ではないか。

デザインももうちょっとなんとかしてほしい。世界中で、やれアメリカの○○風とか、ヨーロピアンの風格とか、伝統のウンヌンとか、ゴチャマゼの家が展開するのは日本だけ。住宅を商品にしてしまった世界最初の国が日本にちがいないのだが、同じ商品でも、電化製品や車にくらべ、あまりにも質も量も劣りすぎる。

見かけだおしのハウスメーカー住宅がはびこるのにはそれだけの歴史的な必然性があって、いくら良心的な建築家でもこうした時代の潮流から逃れることはむずかしい。良心的、誠実、であればあるだけ商品化の泥沼に足を取られるような構造がすでに確立しているのである。

ではどうすればいいのか。すぐ考えつくのは、民芸路線というか、ログハウス路線というか、手作りや木の味なんかをうたうことだが、しかしそうした路線の高度なウソに気づいてしまった人はどうすればいいのか。もはや道は一つ“タダクルエ”。

建築家・石山修武は、そうしてクルッタのだった。

クルッタ結果、彼の目には、現代の住宅のおおかたが虚構の産物に見えてきた。そして世間の常識やいかにもの家庭から逸脱した住宅の中に真実を求めてゆく。

たとえば、彼の前にある日現われた注文主は、手持ち資金ゼロの結婚状態の男二人。

それでイタク闘争心をかきたてられた。家族という概念がはじまりにない。もちろん子供部屋もない。だって生れるはずがない。そうするとリビングルームもなくなる。個室もなくなる。だって(男同志だから)プライバシーがいらないという。トイレも風呂にもドアがない。台所だってコンロがふたつあればよいという。なにしろ、ガランとした空間があるだけでよいのだといい張る。

そして、総工費千五百万円の家が完成する。この格納庫のような家の中に納まる家具は二人が拾ってきた物ばかり。たとえば椅子は、「一時代前の理容院に置かれていた、床屋の椅子。ドッシリと重厚で、しかもレバーひとつでリクライニングの角度が変わり、ほとんど水平のベッドみたいになってしまう」

次々に現われる、というより呼び寄せられる、こうした奇怪な注文主と建築家石山の組んずほぐれつの住まい作り奮闘記を読んでいると、原始人が木の枝や石コロを手にして最初の家を作ろうとした時のシーンを現代で見ているような感動を覚える。そして、自分もいっちょやってやろう、とアブナイ元気が湧いてくるのである。

【この書評が収録されている書籍】
建築探偵、本を伐る / 藤森 照信
建築探偵、本を伐る
  • 著者:藤森 照信
  • 出版社:晶文社
  • 装丁:単行本(313ページ)
  • 発売日:2001-02-10
  • ISBN-10:4794964765
  • ISBN-13:978-4794964762
内容紹介:
本の山に分け入る。自然科学の眼は、ドウス昌代、かわぐちかいじ、杉浦康平、末井昭、秋野不矩…をどう見つめるのだろうか。東大教授にして路上観察家が描く読書をめぐる冒険譚。

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。

住宅道楽―自分の家は自分で建てる / 石山 修武
住宅道楽―自分の家は自分で建てる
  • 著者:石山 修武
  • 出版社:講談社
  • 装丁:単行本(246ページ)
  • ISBN-10:4062581043
  • ISBN-13:978-4062581042
内容紹介:
陳腐で奇妙で高価格。地球上最悪の住宅の現実が、日本にある。無の境地をめざす「究極の家」、アライグマと暮らす家、棺桶を模した「ドラキュラの家」、そして「村」と名づけたみずからの住居。「住宅設計戦線」に挑む建築家が、提示する自由な住宅像の数々。「自分の家を自分で建てる」ことの意味と楽しみを、熱く説く。

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毎日新聞 1997年6月22日

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