書評
『住宅道楽―自分の家は自分で建てる』(講談社)
家は自分で建てる? お任せ態度に「喝」!!
建築家は正体不明。頼んだらタカソーだし、態度はエラソーだし、言うことはムズカシソーだ。そのくせメロドラマの主人公にもっともなりやすい職業だ(ハハハ)。家を建てるときケンチクカに頼むのはこわい。石山修武さんはこの建築家とユーザーという異界の交信のため、ヨモツヒラサカをえっちらおっちら、汗をかきかき往復しているような人だ。
とにかく日本の住宅は高すぎる、と彼はいう。土地も高いし、流通は多層化して、だれも“坪何十万”という管理価格でしかモノを考えられなくなっている。もっと安くなるんだぜ、ならないのはユーザーが材料や部材の値段を知ろうともしないからだ、ト。
日本の住宅は貧しい。雑誌やチラシであてがいぶちのイメージがユーザーを洗脳している。たしかにそうだ。私たちは「住宅」というとMホームとかHハウスとかの家をすぐ思い浮かべてしまう。せめて自分が住みたい家のイメージくらいキチンと考えてよ。でないと建築家は何もできない。オレたちにだって表現欲はあるけどさ、究極、建てるのはアンタだ。
当たり前の話である。本書はざっくばらんに気安く書かれているが、けっこうユーザーに厳しいのだ。それが皮肉でも嫌みでもなくて、まっ向唐竹割りなので、読んでいるうちに快感になる。目が覚める。「字が読める頭があれば、家は自分で建てられるのだ」。どうです。挑発にのりませんか。
そんな例として、男性カップルのための「ドラキュラの家」、カナダドルで木材を買いつけた「井上さんの家」(費用内訳付き)、「アライグマと暮らす家」などが楽しげに語られる。いや住み手アライグマからの批判もあって建築家はタジタジだ。
もちろん「大きな建築を設計する方がはるかに得」、そのうえ目立つので、名のある建築家は住宅をしたがらない。でも不必要なホールや庁舎をつくるには著者はインテリすぎるし、韜晦癖のわりには理想主義者とみた。それで石山さんにとって「住宅設計は一種の真剣極まる道楽」なのらしい。
決めたらボヤクなよ、さいごまでがんばって、と私は進行中の「世田谷村計画」を固唾(かたず)をのんで見守ることにする。
朝日新聞 1997年7月13日
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