書評

『地中海都市の空間人類学』(古小烏舎)

  • 2025/10/21
地中海都市の空間人類学 / 陣内 秀信
地中海都市の空間人類学
  • 著者:陣内 秀信
  • 出版社:古小烏舎
  • 装丁:単行本(ソフトカバー)(312ページ)
  • 発売日:2025-07-30
  • ISBN-10:4910036075
  • ISBN-13:978-4910036076
内容紹介:
「都市ってもっと面白いはずだ!」 イタリア、スペイン、クロアチア、トルコの各都市、シリアのダマスクス、アレッポ、カイロ、チュニス、モロッコのフェズ、マラケシュ……歴史の蓄積をもち、… もっと読む
「都市ってもっと面白いはずだ!」

イタリア、スペイン、クロアチア、トルコの各都市、シリアのダマスクス、アレッポ、カイロ、チュニス、モロッコのフェズ、マラケシュ……歴史の蓄積をもち、計り知れぬ豊かさを秘めた地中海都市の迷宮を奥へ奥へ。地中海周辺の古代以来の高度な文明、多種多彩な個性豊かな文化、魅力あふれる建築や都市空間を読み解く。


限りなく多様で豊穣な地中海世界。東から西まで、豊かな自然と歴史の厚みを誇り、異文化が入り交じる地中海都市は、単純ではない。都市の原点として、いかにつくられ、魅力はどこから生まれているのか。平和で安定していた時代の「地中海都市論」にいま再び光を当てる。

序章 都市の基層
地中海世界の都市の基層を探る/広場の原点/広場の役割/計画都市と非計画都市/古代起源の都市と純粋な中世都市/中庭をもつ迷宮的空間/袋小路が作り出す迷宮的空間/水と結びつく聖地

Ⅰ 古代との対話
海を背景とする古代劇場/古代遺跡の中の町―スプリット/永遠の時を織り込むローマ/重層する聖域―シラクーザ/神殿、教会、大モスク―ダマスクス

Ⅱ 異文化の混淆
楽園の構造―アルハンブラ宮殿/イスラームの都市の記憶/コスモポリタンな都市文化―パレルモ/旧ユーゴスラヴィアの悲劇/絶景の小都市―モスタール/自由の都市―ドゥブロヴニク

Ⅲ 風土と民家
地中海が育んだ建築史/水と緑の町―ブルサ/カラフルな木造民家―サフランボル/立体的な斜面都市―マルディン/白く輝くトゥルッリ―アルベロベッロ/絶壁の都市―ピティリアーノ

Ⅳ 迷宮都市からの発想
濃密な生きられた空間との出会い/迷宮に潜む計画性/観念としての迷路/現実に生きる迷宮/究極の迷宮都市―フェズ、マラケシュ/部分からの発想―ダマスクスとアレッポ

Ⅴ 中庭の小宇宙
中庭型住宅の普遍性/ローマ時代の中庭―ポンペイ/イスラーム世界の様々な中庭/アラブの香りのパティオ―アンダルシア地方/天国の中庭―アマルフィ/隠す発想、見せる発想―ヴェネツィア/ルネサンスのパラッツォ―フィレンツェ/中庭の誘惑―ナポリ

Ⅵ 水の戯れ
カナートの発明―イラン/堂々たる地下水道―シエナ/水を引く都市、溜める都市/五感に語りかけるイスラームの都市

Ⅶ 劇場としての広場
広場という本質/イスラームの社交場、モスクとハーン/変幻自在のサロン、チャイハーネ/社交の場カフワ

Ⅷ 聖と俗のトポス
神々のアクロポリス、市民のアゴラ/死者の豊かな世界/出迎える死者たち/墓地でくつろぐ/城壁の内と外―カイロ/謎の石塔ヌラーゲ―サルデーニャ/田園の教会―シリクア

Ⅸ 水の聖域
地中海世界の信仰と水/ギリシア世界における水のトポス/サルデーニャに受け継がれる水の聖地/南イタリアに見る水上の宗教行列

Ⅹ 都市からテリトーリオへ
イスラーム世界の政情の変化とフィールド研究の難しさ/「テリトーリオ」という視点/田園の価値の発見/ルネサンス都市フェッラーラの新たな見方/ポー川デルタ地帯の多彩な風景
青い空と青々とした海にはさまれた地中海。そこに広がる地中海都市を語らせれば、本書の著者以上にふさわしい人はいない。アルプス以北から広まった近代都市は、碁盤目型・放射状のごとく全景が見事で機能的な美しさがあっても、人間本来の空間への欲望や愛着が捨て去られている。だが、西洋建築史を彩る様式はほとんど地中海圏を源泉としており、そこには独特な迷路をもつ都市が育まれてきた。その空間をさまよえば、さまざまな驚きと発見があり、心地よく感覚を刺激し、身体のリズムにも共鳴するという。

地中海都市のバザールは小さな店がびっしりと並ぶ集積度の高い商業空間の迷宮である。だが、建物の中庭に入ると喧騒(けんそう)から逃れ、落ち着いた雰囲気につつまれる。水と緑をとり込んだ居心地のいい中庭はまさしく「地上に楽園を実現する」という理想がある。中庭型の住宅が連なる市街地は中東では前二〇〇〇年ころにさかのぼり、家族のプライバシーを守るためことさら重要であった。

イタリアに始まる著者の都市探究は、イスラーム圏にも及び、地中海文明としての空間人類学の開明に至り、今なお創見にあふれている。
地中海都市の空間人類学 / 陣内 秀信
地中海都市の空間人類学
  • 著者:陣内 秀信
  • 出版社:古小烏舎
  • 装丁:単行本(ソフトカバー)(312ページ)
  • 発売日:2025-07-30
  • ISBN-10:4910036075
  • ISBN-13:978-4910036076
内容紹介:
「都市ってもっと面白いはずだ!」 イタリア、スペイン、クロアチア、トルコの各都市、シリアのダマスクス、アレッポ、カイロ、チュニス、モロッコのフェズ、マラケシュ……歴史の蓄積をもち、… もっと読む
「都市ってもっと面白いはずだ!」

イタリア、スペイン、クロアチア、トルコの各都市、シリアのダマスクス、アレッポ、カイロ、チュニス、モロッコのフェズ、マラケシュ……歴史の蓄積をもち、計り知れぬ豊かさを秘めた地中海都市の迷宮を奥へ奥へ。地中海周辺の古代以来の高度な文明、多種多彩な個性豊かな文化、魅力あふれる建築や都市空間を読み解く。


限りなく多様で豊穣な地中海世界。東から西まで、豊かな自然と歴史の厚みを誇り、異文化が入り交じる地中海都市は、単純ではない。都市の原点として、いかにつくられ、魅力はどこから生まれているのか。平和で安定していた時代の「地中海都市論」にいま再び光を当てる。

序章 都市の基層
地中海世界の都市の基層を探る/広場の原点/広場の役割/計画都市と非計画都市/古代起源の都市と純粋な中世都市/中庭をもつ迷宮的空間/袋小路が作り出す迷宮的空間/水と結びつく聖地

Ⅰ 古代との対話
海を背景とする古代劇場/古代遺跡の中の町―スプリット/永遠の時を織り込むローマ/重層する聖域―シラクーザ/神殿、教会、大モスク―ダマスクス

Ⅱ 異文化の混淆
楽園の構造―アルハンブラ宮殿/イスラームの都市の記憶/コスモポリタンな都市文化―パレルモ/旧ユーゴスラヴィアの悲劇/絶景の小都市―モスタール/自由の都市―ドゥブロヴニク

Ⅲ 風土と民家
地中海が育んだ建築史/水と緑の町―ブルサ/カラフルな木造民家―サフランボル/立体的な斜面都市―マルディン/白く輝くトゥルッリ―アルベロベッロ/絶壁の都市―ピティリアーノ

Ⅳ 迷宮都市からの発想
濃密な生きられた空間との出会い/迷宮に潜む計画性/観念としての迷路/現実に生きる迷宮/究極の迷宮都市―フェズ、マラケシュ/部分からの発想―ダマスクスとアレッポ

Ⅴ 中庭の小宇宙
中庭型住宅の普遍性/ローマ時代の中庭―ポンペイ/イスラーム世界の様々な中庭/アラブの香りのパティオ―アンダルシア地方/天国の中庭―アマルフィ/隠す発想、見せる発想―ヴェネツィア/ルネサンスのパラッツォ―フィレンツェ/中庭の誘惑―ナポリ

Ⅵ 水の戯れ
カナートの発明―イラン/堂々たる地下水道―シエナ/水を引く都市、溜める都市/五感に語りかけるイスラームの都市

Ⅶ 劇場としての広場
広場という本質/イスラームの社交場、モスクとハーン/変幻自在のサロン、チャイハーネ/社交の場カフワ

Ⅷ 聖と俗のトポス
神々のアクロポリス、市民のアゴラ/死者の豊かな世界/出迎える死者たち/墓地でくつろぐ/城壁の内と外―カイロ/謎の石塔ヌラーゲ―サルデーニャ/田園の教会―シリクア

Ⅸ 水の聖域
地中海世界の信仰と水/ギリシア世界における水のトポス/サルデーニャに受け継がれる水の聖地/南イタリアに見る水上の宗教行列

Ⅹ 都市からテリトーリオへ
イスラーム世界の政情の変化とフィールド研究の難しさ/「テリトーリオ」という視点/田園の価値の発見/ルネサンス都市フェッラーラの新たな見方/ポー川デルタ地帯の多彩な風景

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初出メディア

毎日新聞

毎日新聞 2025年10月4日

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