解説

『「自分で食べる! 」が食べる力を育てる:赤ちゃん主導の離乳入門』(原書房)

  • 2020/01/24
「自分で食べる! 」が食べる力を育てる:赤ちゃん主導の離乳入門 / ジル・ラプレイ,トレーシー・マーケット
「自分で食べる! 」が食べる力を育てる:赤ちゃん主導の離乳入門
  • 著者:ジル・ラプレイ,トレーシー・マーケット
  • 翻訳:築地 誠子
  • 監修:坂下 玲子
  • 出版社:原書房
  • 装丁:単行本(288ページ)
  • 発売日:2019-11-21
  • ISBN-10:456205705X
  • ISBN-13:978-4562057054
内容紹介:
離乳食はピューレをスプーンで……その常識が赤ちゃんの口の力を奪っていませんか? 英国発、固形食を〝手づかみ〟で食べ、口と歯、そして心身すべての能力を自然に伸ばす注目の離乳法――「赤ちゃん主導の離乳 BLW(Baby-led Weaning)」のすべて。世界20か国翻訳出版の話題の書、ついに邦訳!
「子供の口が変だ!」40年ほど前から、医療関係者のあいだでは子どもの口についてそう言われてきました。
ほっそりした細い顎(あご)は、見方を変えれば、歯が並びきらずに重なりあって生える不正咬合(ふせいこうごう)の危険と紙一重。噛む機能が低下してきたという指摘もされています。
口と歯を診るプロである歯科医師はこうした近年の傾向を危機感を持って見ています。そして、じつはこの問題は口や歯だけではなく、そもそもの「食べる」力、とくに赤ちゃん時代の離乳食が深く関係しているのではないかと考える医師も少なくありません。
最近、おかゆなどではなく、大人と同じ固形食を手づかみで食べる「BLW離乳法」が注目されています。邦訳書も昨年11月に出版されました(『「自分で食べる!」が食べる力を育てる:赤ちゃん主導の離乳(BLW)入門』原書房)。BLWについてくわしく、また歯科医師でもある山田翔氏が、子どもの口と歯、離乳の進め方と基本の考え方などについてわかりやすく解説します。

子どもたちの「食」への悩みが増えている

いま、「噛めない」「飲み込めない」「食に前向きでない」という子どもたちの「食」への悩みが増えています。
その原点とも言えるのが、「離乳食」に関する悩みです。
いつから始めたらいいのか、何から始めたらいいのか、どう始めたらいいのか。
本やインターネットで調べたとおりに手間をかけて準備をしてもなかなかうまくいきません。
「おかしいな、本にはこう書いてあるのに」
「言われたとおりにやってもうまくいかないなんて、この子は何かみんなと違うのだろうか」
努力しても報われないつらさ。先の見えない不安。まわりの視線。
さまざまなプレッシャーに追い詰められてしまうことも少なくありません。
しかし考えてみれば不思議です。
「食べる」ということは動物として当然備わっている能力のはずなのに、なぜ私たちはこれほど「食べる」ことに悩んでしまうのでしょうか?

私は歯科医師として日々診療をしながら、主にむし歯予防や口腔(こうくう)機能について学び、活動をしています。
現在、多くの子どもたちにはむし歯の問題はそれほど見られなくなってきました。
しかし最近では「食べること」そのものへの相談を受けることが目立って増えてきています。
その代表的なものが、最初に書いた子どもが「噛めない」「飲み込めない」「食に前向きでない」などの相談です。

私は、みなさんのお口の診察をし、人が生きていくうえでもっとも基本的な「食べる」という行為を支える歯と口は本当に大切なものだと日々痛感しています。
そして、みなさんが一生おいしく食べられるようにするために、歯科医師である自分には何ができるだろうかと考えています。
人生100年時代と言われる世代に歯を残すことができたとしても、その歯を使って「食べる」ことがうまくできなければ、なんのための歯なのでしょう。
その「食べる」ことを学びはじめる大切な時期が、授乳期および離乳期なのです。

BLWとはなにか

私は、子どもの食に悩む方の相談を受けて支援をしたり、お口の機能に関するトレーニングを行ったりしてきました。
そして歯並び(不正咬合、不正歯列)の原因を学んでいるときに、Baby-Led Weaning に出会いました。
Baby-Led Weaning(ベイビー・レッド・ウィーニング:「赤ちゃん主導の離乳」。略称:BLW)とは、10年以上前から世界的に広まりはじめた離乳の考え方で、現在の離乳食の手法に欠けている「赤ちゃんの視点」を重視したものです。
イギリスから話題になり、しだいにヨーロッパやアメリカ、最近ではアジアでも注目されてきています。

日本では、離乳食とはトロトロにやわらかくしたものや裏ごししたものをスプーンで赤ちゃんに与えることから始め、段階的にかたいもの、大きなものを食べさせていく、というのが一般的なイメージだと思いますが、BLWは違います。
赤ちゃん専用の離乳食は作りません。
大人が食べるものと同じ固形食を赤ちゃん自らが手でつかんで食べるという方法です。
最近では日本でもBLWについてご自身で調べ、ツイッターやインスタグラムなどで発信しているお母さんたちも多くなってきましたから、すでにBLWという名前はご存知の方もいらっしゃるかもしれません。

「親目線」ではなく「赤ちゃん目線」

手法自体にも驚かれるかもしれませんが、重要なのはその考え方です。
BLWは、「親目線」ではなく「赤ちゃん目線」なのです。
現在の離乳食の手法に欠けているのは「赤ちゃんの視点」です。
人間には生まれてすぐにお母さんの乳房から母乳を飲む能力が備わっています。国連の世界保健機関(WHO)は生後6か月までは母乳(またはミルク)のみで育てることを推奨しており、そこから徐々に固形食のみを食べるようなるまでを「離乳」と呼び、その食事を「補完食」と呼びます。
そして、その開始の時期や食べる回数、何をどう食べるかはまわりの大人が決めるのが当然だと一般的には考えられています。
しかしこれはよく考えると奇妙なことです。
たとえば赤ちゃんがいつ寝返りをし始めるか、はいはいをし始めるか、立ち始めるか、しゃべり始めるか。これらをまわりの大人が決めることは通常はありえません。
母乳をいつ飲むのか、どれだけ飲むのか、といったことも、基本的には赤ちゃんが求めるように応じるのが現在の授乳の基本的な考え方となっています。
ところが、「いつ食べ始めるか」だけは、まわりの大人が決めることが当たり前になっています。
しかし、特別な問題を抱えていない限り、多くの赤ちゃんは「自分で食べたい」というサインを、ある時期が来れば自分から出しているのです。
親が食事をしているところに赤ちゃんを同席させると、親の食べているものを触りたがったり、食べ物をつかみ、口へ運び出したりしはじめます。
人類は昔からそのように、大人の食事を分け与えて離乳を行ってきたのです。

スプーンは使わない

人間の本来の成長を考えるBLWでは、スプーンを使って大人が赤ちゃんに「食べさせる」ということをしません。
大人と同じ食事を取り分け、赤ちゃん自身が主に手づかみで自由に食べ物を食べていきます。
私達は普段から、いつ食べるか、何を食べるか、どのように食べるか、どの食べ物から手をつけるか、どのくらいの量をとって口に運ぶか、次の一口はどんなタイミングで食べるかを、ほぼ無意識ではありますが、自分で選択して、自分で行っています。
これをもし他人にすべてコントロールされたらどうでしょうか?
食事のメニューを自分でいっさい決めることができず、誰かが決めた時間にお腹がすいていようがいまいが食べさせられ、どの食べ物からどの程度口に運ぶかも選ぶことができず、まだ食べ終わっていなくても次のひとくちが運ばれてきたらどうでしょうか?
それがどんな食べ物なのか、見ることは多少できても、においをしっかり嗅いだりすることはできず、ちょっとさわることも許されなかったらどう感じるでしょうか?
間違いなくそれは苦痛でしょう。
「食の主導権を誰が握っているか」は、大変重要な問題です。
たとえば摂食障害を抱える子どもたちへの医学的なアプローチとして、まず食への主導権をその子どもに渡す考え方があります。子どもであっても、赤ちゃんであっても、同様の欲求を持っているものと考えるべきなのです。

「楽しい」を大切にする

BLWに関する研究で、興味深い結果が出ています。
それは、BLWで育った子どもたちは「食を楽しむ」傾向があると示されていることです。
BLWがイギリスで広まったのは、お母さんたちが「懸命に勉強」して、「こうあるべきだ!」とがんばったからではないのです。
まずなによりも、BLWは赤ちゃんもお母さんも「楽しい!」という理由から口コミで広がっていったそうです。
なぜでしょうか。
BLWは食べる主体である赤ちゃんをまず第一に考えるからです。
「自分で食べる」という生き物にとってもっとも基本的な姿勢を大切にし、「食べさせる」のではなく、赤ちゃんが「自分で食べて」ぐんぐん成長するのを信じて見守るよろこびがあるから――ではないでしょうか。
BLWは、お母さんたちの口コミを追うようにその後研究が重ねられ、現在ではイギリス政府のガイドラインにも盛り込まれています。

窒息と栄養についての不安

単に手法としてのBLWを知ったときにまず不安になるだろうことは、窒息や栄養についてでしょう。
これらについては専門家たちがすでに検証をしており、BLW(正確には改良型BLISSという手法)群と従来法の群では差がないことがわかっています。
BLWであっても窒息が起きるリスクは従来法と差はなく、鉄や亜鉛を代表とした栄養面の指標についても問題はないことが証明されています。
ただし、日本では親が窒息時の緊急対応について研修を受けた経験があることは少なく、統計的に有意な差はなくともその親にとってはその子はたったひとりのかけがえのない存在ですから、万一に備えた対応法やどういう食品を避けるべきかを学んでおくことは、BLWに限らず、また食事の場に限らず、必要なことです。

子どもを信頼し、「食べる力」をはぐくむ

BLWについて知るほどに、私はこんなふうに思うようになりました。
BLWの本質は、じつは「手づかみ食べがよい」とか「顎(あご)をしっかり使う」とか、そういう手法的なところにあるのではありません。
赤ちゃんの「食べたい」気持ちを大切にし、赤ちゃんの食べる力、育つ力を信頼し、尊重することこそがBLWの本質です。
赤ちゃんの、子どもたちの、食への向き合い方の始まりの話なのです。

これまで日本でのBLWに関する情報はかなり限定されていましたが、昨年11月に原著の日本語版(『「自分で食べる!」が食べる力を育てる:赤ちゃん主導の離乳(BLW)入門』原書房)が出版となりました。
この書籍の原著はイギリスで10年前に出版されてから20ヶ国語以上に翻訳され、10周年を記念して改訂されたものの邦訳版です。
これまでのBLWに関する知識や実例の蓄積が詰まっていて、一般の方も専門家の方もその本質を学ぶことができるでしょう。
歯科医師としても、ひとりの親としても、たくさんの親と子どもたちが、それぞれ一度きりのこの「離乳」の時期をともに楽しみ、「食」を通じた関わりを大切にしてもらえることを願っています。

[書き手]山田翔(歯科医師。愛知県/たけのやま歯科院長。日本BLW協会理事)
「自分で食べる! 」が食べる力を育てる:赤ちゃん主導の離乳入門 / ジル・ラプレイ,トレーシー・マーケット
「自分で食べる! 」が食べる力を育てる:赤ちゃん主導の離乳入門
  • 著者:ジル・ラプレイ,トレーシー・マーケット
  • 翻訳:築地 誠子
  • 監修:坂下 玲子
  • 出版社:原書房
  • 装丁:単行本(288ページ)
  • 発売日:2019-11-21
  • ISBN-10:456205705X
  • ISBN-13:978-4562057054
内容紹介:
離乳食はピューレをスプーンで……その常識が赤ちゃんの口の力を奪っていませんか? 英国発、固形食を〝手づかみ〟で食べ、口と歯、そして心身すべての能力を自然に伸ばす注目の離乳法――「赤ちゃん主導の離乳 BLW(Baby-led Weaning)」のすべて。世界20か国翻訳出版の話題の書、ついに邦訳!

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ALL REVIEWS 2020年1月24日

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