書評

『ウインドアイ』(新潮社)

  • 2022/11/28
ウインドアイ / ブライアン・エヴンソン
ウインドアイ
  • 著者:ブライアン・エヴンソン
  • 翻訳:柴田 元幸
  • 出版社:新潮社
  • 装丁:単行本(302ページ)
  • 発売日:2016-11-30
  • ISBN-10:410590132X
  • ISBN-13:978-4105901325
内容紹介:
妹はどこへ消えたのか。それとも妹などいなかったのか? 『遁走状態』に続く最新短篇集。最愛の人を、目や耳を、記憶を、世界との結びつきを失い、戸惑い苦闘する人びとの姿。かすかな笑いのの… もっと読む
妹はどこへ消えたのか。それとも妹などいなかったのか? 『遁走状態』に続く最新短篇集。最愛の人を、目や耳を、記憶を、世界との結びつきを失い、戸惑い苦闘する人びとの姿。かすかな笑いののち、得体の知れない不安と恐怖が、読者の現実をも鮮やかに塗り替えていく――。滑稽でいて切実でもある、知覚と認識をめぐる25の物語。ジャンルを超えて現代アメリカ文学の最前線を更新する作家による、待望の第2短篇集。

謎めいた人間の真実を凝視

体を一つの容れ物とみなすなら、そこに収まっている器官や心は私の持ち物であり、それを扱う主人は自分であると思って私たちは日々を生きている。

だが生体としての人間はそうした認識を超えた、謎めいた存在だ。肉体的な危機や精神の不安が高まれば容れ物から主人が漏れ出したり、主人以外の者が声をあげて主張したりする。いや、それほど極端なケースでなくとも、松葉杖を使い、片目に眼帯をしただけで心身と外界との関係ががらりと変わることを私たちは経験として知っている。そうした人間の真実を、様々な設定のもとに凝視した二十五の短編だ。

妹と遊ぶうちに外から家を見ると窓の数が内側からよりひとつ多いことを知った少年、テレビの音声と映像が調整不可能な状態にズレているのに気付いた女、ガムの紙やポスターの切れ端にある言葉の断片を収集し、そこに隠された意味を見いだそうとする男。そもそも自分に妹はいたのかという内なる声に惑わされつつ、突然、姿を消した妹を探しつづける男……。

どの物語も解決をみることはない。認識不可能な世界の側に行ったきり、もどらない。推理小説の構想を考えるだけで決して書き出さない男が主人公の「知」は、その意味で全体を象徴する作品と言えるだろう。彼の関心は事件の解決ではなく、事件が「登場人物たちについて何を語っているか」にある。自分の認識体系内では事件が解決したかにみえても、それは人間の真実を明るみに出すことにはならない。ゆえに推理小説というジャンルは彼の欲求を満たさないのだ。

つまるところ、私たちはみな「完全に自分ではないもののまったく他者というわけでもない何者かに雇われた、孤独な、出来損ないの探偵」なのだ。

そうやって世界の謎にむき合い放浪するのが生きることであるなら、闇雲(やみくも)にがんばるよりも自分を距離をもって観察したい。
ウインドアイ / ブライアン・エヴンソン
ウインドアイ
  • 著者:ブライアン・エヴンソン
  • 翻訳:柴田 元幸
  • 出版社:新潮社
  • 装丁:単行本(302ページ)
  • 発売日:2016-11-30
  • ISBN-10:410590132X
  • ISBN-13:978-4105901325
内容紹介:
妹はどこへ消えたのか。それとも妹などいなかったのか? 『遁走状態』に続く最新短篇集。最愛の人を、目や耳を、記憶を、世界との結びつきを失い、戸惑い苦闘する人びとの姿。かすかな笑いのの… もっと読む
妹はどこへ消えたのか。それとも妹などいなかったのか? 『遁走状態』に続く最新短篇集。最愛の人を、目や耳を、記憶を、世界との結びつきを失い、戸惑い苦闘する人びとの姿。かすかな笑いののち、得体の知れない不安と恐怖が、読者の現実をも鮮やかに塗り替えていく――。滑稽でいて切実でもある、知覚と認識をめぐる25の物語。ジャンルを超えて現代アメリカ文学の最前線を更新する作家による、待望の第2短篇集。

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初出メディア

朝日新聞

朝日新聞 2017年2月5日

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