書評

『京大吉田寮』(草思社)

  • 2020/02/26
京大吉田寮 / 平林 克己,宮西 建礼,岡田 裕子
京大吉田寮
  • 著者:平林 克己,宮西 建礼,岡田 裕子
  • 出版社:草思社
  • 装丁:単行本(80ページ)
  • 発売日:2019-12-04
  • ISBN-10:4794224257
  • ISBN-13:978-4794224255
内容紹介:
100年後もここに集う。
吉田寮の”今”を伝える、写真によるドキュメント。

1913年竣工、現存する日本最古の学生寮、京都大学吉田寮寄宿舎。
学生自治寮として長い歴史をもち、また建築物としても価値をもつ吉田寮と、
そこに生きる寮生たちの”今”、この時をとらえ、伝え記録する。

「吉田寮の魅力について寮生に尋ねると、てんでばらばらな答えが返ってくる。
家賃が安い こと、友達ができること、規則が緩いこと、上下関係がないこと、
猫がいること、貴重な 建築であること、歴史があること、趣味に没頭できること。
きっと人の数だけ住む理由が あるのだろう」  本文より
1913年竣工、現存する日本最古の木造学生寮である、京都大学吉田寮寄宿舎。この吉田寮は、運営に関わることは寮生たち自身で決定し、実行する「学生自治寮」です。初めは男子寮としてつくられた吉田寮ですが、今ではあらゆるジェンダー・年齢の人が入寮できます。そんな独自の文化と長い歴史を持ち、建築的にも価値がある吉田寮ですが、京都大学は2017年、耐震性を理由に寮から退舎するように通達を出しました。2020年現在、寮生は大学と立ち退きをめぐり裁判中です。
寮の存続が揺れていますが、まずは吉田寮のことを客観的に知ることが求められているのではないでしょうか。
今回は、どのようないきさつで吉田寮が写真に記録され、本書にまとめられることになったのかを伝えるまえがき(宮西氏の部分は書き下ろし)をご紹介いたします。

日本最古の学生寮の今を記録するフォトドキュメント

なぜ、吉田寮の【今】を記録することになったのか

「吉田寮の【今】を記録に残すのに協力してくれないか?」
寮の関係者からそんな相談を受け、吉田寮のことをまったく知らなかった私がネットで見つけた情報は、「退去問題で学生と大学がもめている」、「偏屈な学生たちが魔窟のような世界を作っている」という、なんとも近寄りがたい話ばかり。果たしてここに関わっていいのだろうか?と思ったのが正直なところでした。
しかし、実際に、その場に身を置き、寮生たちと一緒に写真を撮り続けるうちに、そこで感じたことは、彼らが、大切なものを、純粋な気持ちで真剣に守ろうとしている、ということでした。
吉田寮は、社会的、文化的、歴史的、そして建築的……様々な観点で、とても重要な存在です。その【今】を写真に残せる機会をいただけたことを光栄に思いつつ、これらの写真が、
単なる吉田寮の記録に終わらず、ここに写っているみなさんにとって、5 年後、10 年後、そして50 年後にも残る、人生の大切な一時期を切り取った記念となることを願っています。
また、これらの写真をご覧になった皆様には、純粋な気持ちで精一杯生きている学生たちの存在、そして、吉田寮とそれに関連した様々な事柄に、より多くの関心を持っていただ
けたら幸いです。(平林克己)

元寮生として、本書をつくるにあたって

「京大吉田寮」の制作にあたって、わたしや岡田さん、平林さんには、載せたい文章や写真が沢山ありました。しかし、本書に許されたページ数は80ページでした。わたしたちは取捨選択を迫られましたが、その作業は困難を極めました。
日本最古の学生寮である吉田寮は、歴史や文化、建築など様々な"価値"を秘めています。窓のひび割れや廊下の擦り傷、トイレの落書きにさえも、何らかのエピソードはあるはずです。ですから、一見ささいな事柄も、もしかしたらかけがえのない価値を反映しているかもしれません。迂闊に削除すれば本の中の吉田寮が現実の吉田寮とは異なる何かに変質してしまうかもしれません。そんな恐ろしい感覚にたびたび襲われました。
それでも、わたしたちは取捨選択を貫徹し、本書を80ページに収めました。苦労したかいあって胸を張ってひとに勧められる本になりました。「簡潔にはなったが、寮の真意は損なわれていなかった」 と寮関係者に言われ、安堵しました。
しかし本書は吉田寮のごく一部を記録し、編集したものです。記録や編集の過程で、やむを得ないこととはいえ、有形無形の沢山の"価値"がこぼれ落ちてしまいました。それらは現在のところ、吉田寮でのみ見出すことができます。しかし京都大学は寮生に立ち退きを求める裁判を起こしており、吉田寮の将来は危ぶまれています。
本書を通じ、吉田寮と吉田寮を取り巻く情勢に、関心を持っていただければ幸いです。また、もし機会がございましたら、実際に吉田寮を訪問し、本書では語り尽くせなかったさまざまな"価値"について、自分なりに考えていただければと思います。(宮西建礼) 

本書をきっかけに寮のことを知って、考えてほしい

吉田寮は1913年(大正2年)に京都帝国大学寄宿舎として建設された、現存する学生寮の中で最古の木造建築です。2015年には旧吉田西寮の代替施設である西寮を建築し、築100年を超える建物と、築数年の建物を合わせて現在の吉田寮となりました。しかし2017年12月19日に京都大学から「耐震性」を理由に、吉田寮から退舎するよう通告が出されました。
その対象には、完成したばかりの西寮も含まれていました。吉田寮が今後どうなるか分からないという状況の中で、吉田寮を記録に残し情報の発信を行おうと協力者と検討を重ね、記録を蓄積していきました。その記録は写真展や寮の広告に使用され、そしてこの度写真集という形となりました。皆様の目に届くのは膨大な記録の中の一部に留まっており、そしてその一部も、吉田寮の長い歴史の中のほんの僅かな時間を切り取ったものになります。
世の中には様々な情報が溢れ、わたしたちも様々な問題に接する機会が増えています。勿論全ての問題を把握するのは、無理なことだと思います。しかしそこで諦めてしまっては、何も解決しないのではないでしょうか。相手が何を考え、感じ、生活しているかを受け止める姿勢が、多くの問題へのアプローチになるのではと願っています。その一つのきっかけに、この吉田寮写真集がなればとても嬉しく思います。(岡田裕子)

[書き手]
写真:平林克己(ひらばやし・かつみ)
東京生まれ。ウィーンを拠点に東ヨーロッパで写真を始める。外資系商社勤務を経て、写真家として独立。「撮った写真に仕事をさせる」ことを第一に掲げ、写真を通じて世界を、そして人をつなぐことを理念としている。

文:宮西建礼(みやにし・けんれい)
1989年、大阪府生まれ。吉田寮の元寮生。2013年に「銀河風帆走」で第四回創元SF短編賞を受賞。

文:岡田裕子(おかだ・ひろこ)
2006年、京都精華大学芸術学部ストーリーマンガコースを卒業。07年、北海道アイヌ民族と生活を送る。08年、知床ナチュラリスト協会に勤務。16年、鍼灸師/柔道整復師の資格を取得。17年、京都大学人間・環境学研究科入学。
京大吉田寮 / 平林 克己,宮西 建礼,岡田 裕子
京大吉田寮
  • 著者:平林 克己,宮西 建礼,岡田 裕子
  • 出版社:草思社
  • 装丁:単行本(80ページ)
  • 発売日:2019-12-04
  • ISBN-10:4794224257
  • ISBN-13:978-4794224255
内容紹介:
100年後もここに集う。
吉田寮の”今”を伝える、写真によるドキュメント。

1913年竣工、現存する日本最古の学生寮、京都大学吉田寮寄宿舎。
学生自治寮として長い歴史をもち、また建築物としても価値をもつ吉田寮と、
そこに生きる寮生たちの”今”、この時をとらえ、伝え記録する。

「吉田寮の魅力について寮生に尋ねると、てんでばらばらな答えが返ってくる。
家賃が安い こと、友達ができること、規則が緩いこと、上下関係がないこと、
猫がいること、貴重な 建築であること、歴史があること、趣味に没頭できること。
きっと人の数だけ住む理由が あるのだろう」  本文より

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。

  • 週に1度お届けする書評ダイジェスト!
  • 「新しい書評のあり方」を探すALL REVIEWSのファンクラブ
関連記事
草思社の書評/解説/選評
ページトップへ