書評

『江戸落語で知る四季のご馳走』(平凡社)

  • 2020/02/29
江戸落語で知る四季のご馳走 / 稲田 和浩
江戸落語で知る四季のご馳走
  • 著者:稲田 和浩
  • 出版社:平凡社
  • 装丁:新書(231ページ)
  • 発売日:2019-11-18
  • ISBN-10:4582859267
  • ISBN-13:978-4582859263
内容紹介:
落語のあらすじをベースに、江戸っ子たちが好んだ四季のご馳走を、さまざまなうんちくを織り交ぜながら紹介する至極のエッセイ。

足るを知る先人たちの生きる息吹を感じる

江戸後期に始まった落語を通じ、四季折々の江戸っ子のご馳走を描く本。旬を食する春は「長屋の花見」を取り上げて花見の重箱に思いを致し、初物にこだわる初夏ならば「髪結新三(かみゆいしんざ)」を通じて鰹を語る。ワインと料理を合わせるように、落語とご馳走の組み合わせの妙が庶民の息吹を生き生きと伝えてくれる。

たとえば医学が未発達だから、ちょっとした病気にかかったら諦めてお陀仏(だぶつ)するしかない。そんな江戸時代が「いい」わけはないのに、現代人はなぜかこの時代にあこがれを抱く。

それは「不便だからこそ」だとぼくは思う。現代人の欲望は肥大する一方で、歯止めがきかない。哲学の不在は欲望のコントロールを放棄し、誰もがまずいと感じながら有効な手が打てない。これでは「しあわせ」など感じられるわけもない。

日本人は元来が草食系で、身の丈に合った生活を是としてきた。歴史的に革命が起きなかったことが物語るように、自分たちの生活をとりまく制限への疑いを突きつめることが得意ではなかった。一方で、所与を天与と受け止め、制限と不便の中で工夫することに抜群の才を示した。それがちょうどよく展開されたのが江戸時代の庶民の世界ではなかったか。彼らは「足る」ことを知っていた。小さな達成を「しあわせ」と感じ、特定の神仏ではなくとも人間以上の何かに頼って安心を得ていた。

いまぼくたち日本人は、過酷な世界との競争を生き抜かねばならない。草食ではいられない。ちょっと前の昭和のように、「まだ豊かでなくても右肩上がり」を信じることもできなくなった。追い立てられる日々だからこそ、江戸が懐かしいのではないか。楽しく豊かな本書を閉じたとき、一抹の悲しみとともにそんなことを考えた。
江戸落語で知る四季のご馳走 / 稲田 和浩
江戸落語で知る四季のご馳走
  • 著者:稲田 和浩
  • 出版社:平凡社
  • 装丁:新書(231ページ)
  • 発売日:2019-11-18
  • ISBN-10:4582859267
  • ISBN-13:978-4582859263
内容紹介:
落語のあらすじをベースに、江戸っ子たちが好んだ四季のご馳走を、さまざまなうんちくを織り交ぜながら紹介する至極のエッセイ。

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