後書き

『砂と人類: いかにして砂が文明を変容させたか』(草思社)

  • 2020/03/26
砂と人類: いかにして砂が文明を変容させたか / ヴィンス・バイザー
砂と人類: いかにして砂が文明を変容させたか
  • 著者:ヴィンス・バイザー
  • 翻訳:藤崎 百合
  • 出版社:草思社
  • 装丁:単行本(399ページ)
  • 発売日:2020-03-02
  • ISBN-10:4794224443
  • ISBN-13:978-4794224446
内容紹介:
人類社会を形作るもの、それは「砂」。その砂はいま、地球から姿を消そうとしている……私たちの暮らす建物、通勤する道路。携帯電話、シェールオイル。現代人に不可欠なこれらのものはすべて「砂」からできている、または砂がなければ得られないものだ。この身近過ぎて普段意識さえしない小さな… もっと読む
人類社会を形作るもの、それは「砂」。
その砂はいま、地球から姿を消そうとしている……


私たちの暮らす建物、通勤する道路。携帯電話、シェールオイル。
現代人に不可欠なこれらのものはすべて「砂」からできている、
または砂がなければ得られないものだ。
この身近過ぎて普段意識さえしない小さな物質は、
実際には世界で最も消費され、必要とされる物質である。
その砂と人間長きにわたる付き合い、とくにこの数百年の
砂なくしてはあり得なかった発展―20世紀のコンクリートの発明と、
21世紀のデジタル技術―を紐解きながら、
いま砂が瀕している危機を見つめる。
体当たりの取材と詳細なデータをもとに圧巻の筆致で描く、
瞠目の本格ノンフィクション。


<内容より>
■第一部 砂はいかにして20世紀の工業化した世界をつくったのか
都市の骨格
善意で舗装された道はどこに続くのか
なんでも見えるようにしてくれるもの

■第二部 砂はいかにして21世紀のグローバル化したデジタルの世界をつくったのか
高度技術と高純度
フラッキングを推し進めるもの
消えるマイアミビーチ
人がつくりし土地
砂漠との闘い
コンクリートの世界征服
砂を越えて
現代文明を支えている最も重要な個体は何か、考えてみたことはあるでしょうか。コンクリート、ガラス、シリコンチップ、シェールオイル……これらの現代を支える物質のいずれにも、「砂」が必要不可欠なのです。本書は、砂なくしてはありえなかった現代文明の発展の歴史を紐解きながら、砂と人間の関わりを描く現代文明論です。今回は、訳者によるあとがきを掲載いたします。
 

砂とともにある風景

田畑が広がるのどかな風景のなか、白い岩肌が顔をのぞかせる緑豊かな山のふもとに、軒を連ねる白い工場の数々。それが私の原風景です。私の実家の家業は石灰工場で、子どもの頃から石灰にまみれて走り回り、危ないと言われながらもこっそり山の石切り場で遊んでいました。石灰は砂ではありませんが、砂から見える世界に近い風景を、私は石灰を通して見てきました。石灰とは、石灰石を焼成・加工してつくられる細かい粉状の物質で、本書にも登場するとおりセメントの原料です。そのため、近所に生コンクリートの会社もあって、細い道路をミキサー車やトラックが行き交っていました。

石灰の利用法もまた、多岐にわたります。小学生の頃からお馴染みのチョークや白線引き、しっくいや肥料に乾燥剤など、他にも用途はさまざまです。映画好きの父のお気に入りの作品がチャップリンの『ライムライト』。無口な父が、ライムは英語で石灰という意味で、石灰を使った照明をライムライトというのだと嬉しそうに教えてくれました。また、こんにゃくを手作りしていた料理好きの母から、石灰が食品用の凝固剤としても使われることを聞いて驚いたものです。採石場のある山にはビワがたくさん生えているのですが、ビワは石灰質土壌を好むそうで、曾祖母は石灰が虫除けにもなるとも言っていました。そんな話が身近に溢れ、石灰は私の子ども時代の日常のなかにありました。

しかし、多くの方にとっては、砂や石灰のような微細なものが形を変えて自分の生活を支えていることを意識する機会はあまりないのではないでしょうか。特に砂は、あって当たり前のもので、「浜の真砂」という表現が示すように無限であるかに思われています。資源という認識さえされないこの砂を私たちが使い果たそうとしているなど、考えもしなかったはずです。


砂から見える人類の欲望の歴史


本書の原題『The World in a Grain』は、ウィリアム・ブレイクの詩『無垢の予兆』の冒頭、「ひと粒の砂に世界を見る」からとられています。本書を読むと、その姿をコンクリートやガラス、シリコンチップ、新たな土地へと次々に変え、人類に多大な影響を及ぼし、文明の土台となっている砂に、この世界のあり様が凝縮していることがわかります。本当に、「砂に世界を見る」体験が待っているのです。その先に見えてくるのは、私たちの生活がいかに砂に依存しているか、いかにして砂の利用がさらなる砂の利用を生み、砂の消費が相乗的に拡大しているかです。無尽蔵ではない、限られた資源である砂を、私たちが食いつぶし奪い合っています。そして、そのしわ寄せを受けているのは低所得者層や発展途上国だという、格差の構図が浮かびあがります。この本は、砂を通して見た、人間の欲望と消費の文化史に他ならないのです。

著者は、テクノロジーや社会問題に造詣が深い、ジャーナリストのヴィンス・バイザー。大学時代に中東研究を専攻した彼が、砂に関心をもったのは自然な流れかもしれません。執筆記事は教科書やアンソロジーなどに収められることも多く、数々の受賞歴があります。第1作となる本書は、ピューリッツァー危機報道センターの助成金を受け、取材を重ねて完成されたものです。ほとばしる熱意が土台となり、見事な構成力によって骨格を与えられ、卓越した取材力によって肉付けされた、まさに血の通った一冊となっています。

本書でまず示されるのは、何千年にもわたる砂と人類の関わりです。古代においてどのようにしてコンクリートやアスファルト、ガラスが発明され、その技術が現代に至るまでにどう洗練されてきたのか。現在のデジタル技術を支え、グローバル化の基盤となっているシリコンチップはどうやって開発されたのか。今も盛んな道路敷設や養浜、土地造成は、どんな歴史を辿ってきたのか。コンクリート建設と都市の発展はどのような関係にあるのか。こういったさまざまな事柄が、発明家や政治家、実業家たちの人間臭いドラマを挟みつつ、丁寧に描かれています。

さらに、科学・工学面での描写も秀逸です。目的の砂を選別するための浮遊選鉱法に、石英砂から多結晶シリコン、単結晶シリコンを経てウエハーがつくられるまでの各工程。頁岩層から石油やガスを採掘するためのフラッキングの方法や、何もない海に島をつくる方法など、実際に砂が加工・操作される過程を、専門用語を使わず、どこまでも具体的に解説しています。

そして著者のジャーナリストとしての本領が発揮されるのが、容赦ない現実への体当たりの取材です。アメリカ国内の浜辺や採掘地、工場だけでなく、ドバイの人工島、中国のゴーストタウン、モンゴル自治区、砂マフィアが暗躍するインドにまで足を運べ、現場を見つめ、当事者への取材を試みます。生産者であろうと消費者であろうと、砂に関わる人々を決して単純に責めたりはせず、取材対象に寄り添います。砂を掘る人、砂で商売する人、砂に人生を懸ける人、砂と闘う人、砂を盗む人、砂のために家族を殺された人。砂と関わる世界中の人々の話の中に、今この瞬間の世界が切り取られているのです。

 

もはや砂が足りないという現実


このような多方面からの視点と、大量の資料と統計データから得られるエビデンスが有機的に結びつけられて浮き彫りとなるのは、先進国が今のライフスタイルを維持し、発展途上国が人々の暮らしをそれと同レベルまで引き上げようとしても、今ある砂ではもはや足りないという現実です。その現実から目を背けることなく、考え続けることを、経済や技術の力で対処する努力をすることを、取り組みの実例を挙げつつ著者は訴えます。考える方法と、そのための素材をふんだんに提供しているのが本書なのです。読み終えたときには、周りの世界に対する見え方・考え方が一変することでしょう。たくさんの人に助けられながらようやく訳し終えたこの本を、できるだけ多くの人に読んで頂ければと願っています。

このあとがきを書いているのは2020年初頭ですが、年末には「はやぶさ2」が地球に帰還し、小惑星「リュウグウ」で採取した砂を届けてくれる予定です。きっとその砂が、太陽系や生命の起源の謎を解明するための手がかりとなることでしょう。「ひと粒の砂に世界を見る」どころか、「宇宙を見る」時代がきているのですから。

[書き手]藤崎百合(ふじさき・ゆり)
高知県生まれ。名古屋大学理学部物理学科卒業。同大学大学院人間情報学研究科にて博士課程単位取得退学。技術系企業や図書館での勤務を経て、技術文書や人道支援活動に関する資料の翻訳、字幕翻訳などに携わってきた。
砂と人類: いかにして砂が文明を変容させたか / ヴィンス・バイザー
砂と人類: いかにして砂が文明を変容させたか
  • 著者:ヴィンス・バイザー
  • 翻訳:藤崎 百合
  • 出版社:草思社
  • 装丁:単行本(399ページ)
  • 発売日:2020-03-02
  • ISBN-10:4794224443
  • ISBN-13:978-4794224446
内容紹介:
人類社会を形作るもの、それは「砂」。その砂はいま、地球から姿を消そうとしている……私たちの暮らす建物、通勤する道路。携帯電話、シェールオイル。現代人に不可欠なこれらのものはすべて「砂」からできている、または砂がなければ得られないものだ。この身近過ぎて普段意識さえしない小さな… もっと読む
人類社会を形作るもの、それは「砂」。
その砂はいま、地球から姿を消そうとしている……


私たちの暮らす建物、通勤する道路。携帯電話、シェールオイル。
現代人に不可欠なこれらのものはすべて「砂」からできている、
または砂がなければ得られないものだ。
この身近過ぎて普段意識さえしない小さな物質は、
実際には世界で最も消費され、必要とされる物質である。
その砂と人間長きにわたる付き合い、とくにこの数百年の
砂なくしてはあり得なかった発展―20世紀のコンクリートの発明と、
21世紀のデジタル技術―を紐解きながら、
いま砂が瀕している危機を見つめる。
体当たりの取材と詳細なデータをもとに圧巻の筆致で描く、
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<内容より>
■第一部 砂はいかにして20世紀の工業化した世界をつくったのか
都市の骨格
善意で舗装された道はどこに続くのか
なんでも見えるようにしてくれるもの

■第二部 砂はいかにして21世紀のグローバル化したデジタルの世界をつくったのか
高度技術と高純度
フラッキングを推し進めるもの
消えるマイアミビーチ
人がつくりし土地
砂漠との闘い
コンクリートの世界征服
砂を越えて

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