前書き
『ヴィジュアル版「決戦」の世界史[普及版]:歴史を動かした50の戦い』(原書房)
時代は戦争とともに始まり、戦争とともに終わる。サラミスの戦いから十字軍遠征、ワーテルロー、ミッドウェー、湾岸戦争……。世界の歴史の転機となった50の決戦を、多彩な図版と戦闘図を交え、その歴史的な意味について紹介したロングセラーが待望の普及版で登場。監修者(森本哲郎)まえがきを公開する。
軍事史家でもある著者ジェフリー・リーガンは軍事資料を存分に駆使して戦闘の様相を鮮やかに再現し、戦争というものの実体をなまなましくつたえてくれる。五十の戦闘のなかには、日露戦争の日本海海戦と太平洋戦争のミッドウェー海戦も扱われていて日本の読者には興味深かろうが、著者がこのふたつの海戦をえらんだのは、それがいずれも日本、ひいては世界の歴史に大きな影響を及ぼしたゆえである。著者は東郷平八郎の名を世界的にした対馬沖海戦の大勝利の結果が「日本をひどく誤った方向へ導いたという意味で決定的なものだった」と見る。そして、それが「最終的に広島や長崎の恐るべき大虐殺へ至る道」を開いたというのである。
世界史を読み解き、その全体像を把握するというのは、けっして容易なことではない。この地球上では、さまざまな民族が複雑にからみ合い、数多くの文明が〝挑戦〟と〝応答〟を繰り返して人間ドラマを演じつづけてきたからだ。そのドラマは地球化が進む現在以降も、抗争を伴いつつ展開されていくことだろう。現代人にとって、「歴史認識」が欠かせないゆえんである。
紀元前四八〇年、ギリシアの連合艦隊がペルシア艦隊を狭い海域に誘い込んで撃破し、大勝した「サラミスの海戦」から、一九九一年、多国籍軍がイラクを制圧した「湾岸戦争」にいたるまで、戦争がいかに世界を変えてきたか、本書は個々の戦闘を通じて大観した世界史への案内でもある。
ふりかえると、二度にわたる世界大戦を引き起こし、それにつづいて〝冷たい戦争〟を体験した二十世紀は、まさしく「戦争の世紀」だった。そして、二十一世紀は相手のよく見えないテロに対する戦いの時代になろうとしている。これからの歴史は、どのように展開していくのだろうか。
本書は、それを考える手引きの役割を充分に果たしてくれるように思われる。
[書き手]森本哲郎(評論家)
戦争がいかに世界を変えてきたか
人間の歴史は争いの歴史である。世界史は絶えざる戦争によって織り出されてきた、と言ってもいい。ギリシア、ローマの古代から現代まで、二千五百年にわたる数多くの戦争のなかから五十を取りあげ、その原因、経過、結末を軍事的にくわしく分析し、当事者である人物を描き、後世への影響を考察したのが本書である。軍事史家でもある著者ジェフリー・リーガンは軍事資料を存分に駆使して戦闘の様相を鮮やかに再現し、戦争というものの実体をなまなましくつたえてくれる。五十の戦闘のなかには、日露戦争の日本海海戦と太平洋戦争のミッドウェー海戦も扱われていて日本の読者には興味深かろうが、著者がこのふたつの海戦をえらんだのは、それがいずれも日本、ひいては世界の歴史に大きな影響を及ぼしたゆえである。著者は東郷平八郎の名を世界的にした対馬沖海戦の大勝利の結果が「日本をひどく誤った方向へ導いたという意味で決定的なものだった」と見る。そして、それが「最終的に広島や長崎の恐るべき大虐殺へ至る道」を開いたというのである。
世界史を読み解き、その全体像を把握するというのは、けっして容易なことではない。この地球上では、さまざまな民族が複雑にからみ合い、数多くの文明が〝挑戦〟と〝応答〟を繰り返して人間ドラマを演じつづけてきたからだ。そのドラマは地球化が進む現在以降も、抗争を伴いつつ展開されていくことだろう。現代人にとって、「歴史認識」が欠かせないゆえんである。
紀元前四八〇年、ギリシアの連合艦隊がペルシア艦隊を狭い海域に誘い込んで撃破し、大勝した「サラミスの海戦」から、一九九一年、多国籍軍がイラクを制圧した「湾岸戦争」にいたるまで、戦争がいかに世界を変えてきたか、本書は個々の戦闘を通じて大観した世界史への案内でもある。
ふりかえると、二度にわたる世界大戦を引き起こし、それにつづいて〝冷たい戦争〟を体験した二十世紀は、まさしく「戦争の世紀」だった。そして、二十一世紀は相手のよく見えないテロに対する戦いの時代になろうとしている。これからの歴史は、どのように展開していくのだろうか。
本書は、それを考える手引きの役割を充分に果たしてくれるように思われる。
[書き手]森本哲郎(評論家)
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