書評

『日本語根ほり葉ほり』(新潮社)

  • 2017/09/30
日本語根ほり葉ほり / 森本 哲郎
日本語根ほり葉ほり
  • 著者:森本 哲郎
  • 出版社:新潮社
  • 装丁:ハードカバー(201ページ)
  • ISBN-10:4103372044
  • ISBN-13:978-4103372042
内容紹介:
人間の精神形成に絶大な威力を発揮するのが言葉。その大切な言葉を軽視する昨今の風潮はどこから生まれたのか。日常語の中から気になる表現を選び、日本人と日本文化の変質を考える。
気になる日本語を「独断と偏見」を持って「お茶を濁す」ことなく「根ほり葉ほり」詮索し、「べつに」「カンケイナイ」とうそぶく若者の「おしゃれな」言葉に小言を言い、「前向きに善処します」だの「厳粛に受けとめる」だのいう大人の言葉の「けじめ」のなさをも容赦なく暴きだす――「要約すると」本書は、「その辺のところ」が「結構きますよ」「なーんちゃって」。

実は「(カッコ)」のなかの言葉は、本書にとりあげられた言葉たちの一部である。

ふとしたきっかけから、著者が気になりはじめた言葉を追いかける、というスタイルで二十五の各章は成り立っている。語源に遡ってゆくこともあれば、世界の言語との比較に発展することもある。そこから見えてくるものは、日本語というよりも、日本人の姿そのものだ。

たとえば、なぜ「独断と偏見」という言葉が流行ったのか。それは著者に言わせれば「つまり、日本人は『独断』といわれ、『偏見』と攻撃されることを、ひどく恐れているから」なのである。

また「結構きますよ」の「結構」が持つ曖昧性を辿ってゆくと、「この世は自分の期待するようにはいかないのだから、いつも期待を抑え、結果を低めに設定しておくにしくはない、という心構え」にいきつくという。

そういえば私も「結構おいしい」だの「結構おもしろかった」だのと、よく使う。とびきりのおいしさや、抜群のおもしろさを期待していた場合には、こうは言わないだろう。

百パーセントを期待してしまうと、九十パーセント満足させられても、残り十パーセントでがっかりしてしまう。「失意や絶望に対して、たいへん臆病な」日本人は、はじめから六十パーセントとか四十パーセントぐらいに期待を抑える。すると八十パーセントのものがでてきても「結構よかった」となるわけである。

このように、本書は、さまざまな日本語を通しての日本人論、あるいは日本文化論と読むことができるだろう。それも、「今」の言葉が生け捕りにされ、観察されている点が興味深い。変わりゆく日本語を鏡にして、変わりゆく日本人が見えてくる。

時にそれは、冒頭にも記したように、辛口の小言や大いなる愚痴となって表れる。そこがまた、魅力。だって最近、ものわかりのいいオジサンが多すぎるんだもん。

【この書評が収録されている書籍】
本をよむ日曜日 / 俵 万智
本をよむ日曜日
  • 著者:俵 万智
  • 出版社:河出書房新社
  • 装丁:単行本(205ページ)
  • 発売日:1995-03-01
  • ISBN-10:4309009719
  • ISBN-13:978-4309009711
内容紹介:
大好きな本だけを選んで、読んだ人が本屋さんへ行きたくなるような書評を書きたい-朝日新聞日曜日の書評欄のほか、古典文学からとっておきのお気に入り本まで、バラエティ豊かに紹介する、俵万智版・読書のススメ。

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。

日本語根ほり葉ほり / 森本 哲郎
日本語根ほり葉ほり
  • 著者:森本 哲郎
  • 出版社:新潮社
  • 装丁:ハードカバー(201ページ)
  • ISBN-10:4103372044
  • ISBN-13:978-4103372042
内容紹介:
人間の精神形成に絶大な威力を発揮するのが言葉。その大切な言葉を軽視する昨今の風潮はどこから生まれたのか。日常語の中から気になる表現を選び、日本人と日本文化の変質を考える。

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初出メディア

朝日新聞

朝日新聞

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