書評

『本についての詩集』(みすず書房)

  • 2021/11/10
本についての詩集 / 長田 弘
本についての詩集
  • 著者:長田 弘
  • 出版社:みすず書房
  • 装丁:単行本(287ページ)
  • 発売日:2002-11-01
  • ISBN-10:4622048345
  • ISBN-13:978-4622048343
内容紹介:
その本の世界から誘いだされた詩と、その本の世界へ誘いだす詩。「二十世紀以後の詩」から、固有名の秘めもつ力を伝える92人92篇を選んだ初のアンソロジー。
詩人は言葉について深い想いを巡らせている人たちだから、長田弘さんから「本を読もう。/もっと本を読もう。/もっともっと本を読もう」なんて言われると、勇ましい気持ちで武者震いしたくなる。「本でないものはない。/世界というのは開かれた本で、/その本は見えない言葉で書かれている」なんて言われると、頼もしい気持ちで胸がふくれ上がってくる。

九十二人、九十二編の詩が収められているこの詞華集は、選者の長田さんによれば「本に就いての詩集であり、本に蹤いての詩集であり、本に着いての詩集であり、本に憑いての詩集であり、本に即いての詩集」だ。金子光晴が徴兵を控えた我が子の寝姿の前でアリストファネスを読み、谷川俊太郎がクンデラの本のカバーの裏に走り書きをし、中勘助がスピノザを讃え、飯島耕一がパウル・ツェランを通して母語で傷を負うことについて語り、小池昌代は古本屋で献辞が記されていたであろうページが破かれたディキンソン詩集を手に取り、松浦寿輝はパリ国立図書館でまだ出会えぬ「あなた」に辿り着くことを渇望し、山村暮鳥は「涯のない蒼空」を見上げ老子に親しく呼びかける。そして、わたしは鮎川信夫の詩を読んで、そこに出てくるデルモア・シュウォーツの短編小説を、本棚の奥から引っぱり出してきて再読している。

長田さんが書いているように、「本を読むというのは、『私』が本を読むのではなく、ほんとうは、本に『私』が読まれることです。本は、言葉でできている鏡だから」なのだろう。本に読まれた「私」について書かれた詩を読む自分もまた、詩に読まれているということだ。なんてステキな合わせ鏡! だから、わたしは本を読む。もっと本を読む。そして、もっともっと読まれたい。

【この書評が収録されている書籍】
そんなに読んで、どうするの? --縦横無尽のブックガイド / 豊崎 由美
そんなに読んで、どうするの? --縦横無尽のブックガイド
  • 著者:豊崎 由美
  • 出版社:アスペクト
  • 装丁:単行本(560ページ)
  • 発売日:2005-11-29
  • ISBN-10:4757211961
  • ISBN-13:978-4757211964
内容紹介:
闘う書評家&小説のメキキスト、トヨザキ社長、初の書評集!
純文学からエンタメ、前衛、ミステリ、SF、ファンタジーなどなど、1冊まるごと小説愛。怒濤の239作品! 560ページ!!
★某大作家先生が激怒した伝説の辛口書評を特別袋綴じ掲載 !!★

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。

本についての詩集 / 長田 弘
本についての詩集
  • 著者:長田 弘
  • 出版社:みすず書房
  • 装丁:単行本(287ページ)
  • 発売日:2002-11-01
  • ISBN-10:4622048345
  • ISBN-13:978-4622048343
内容紹介:
その本の世界から誘いだされた詩と、その本の世界へ誘いだす詩。「二十世紀以後の詩」から、固有名の秘めもつ力を伝える92人92篇を選んだ初のアンソロジー。

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初出メディア

婦人公論

婦人公論 2003年2月22日号

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