書評
『ビル・ゲイツ未来を語る』(アスキー)
ウィンドウズ95発売の狂騒劇、マルチメディア時代到来のかけ声もやかましいなか、マイクロソフト社の創業者ビル・ゲイツ氏が、初めての著書を出版した。新興ベンチャー企業の活力が本書にみなぎっている。
当年四十歳の氏は、MSーDOSやウィンドウズといったコンピュータ・ソフトの成功で、いまや世界一の大富豪だ。高校でコンピュータに熱中した十七歳の思い出から、激烈な企業競争を勝ち抜いた日々、情報ハイウエーが駆けめぐる未来社会の展望まで、どのページからも、脈うつ時代の躍動が伝わってくる。
本書の前半、コンピュータ業界栄枯盛衰の戦国史がまず、手に汗を握る面白さだ。チップの性能は二年で倍々に向上すると予想された(ムーアの法則)。計算コストがどこまでも安くなるのなら、死命を制するのはソフト。すべてのパソコンによりよいソフトを提供することが、マイクロソフトの企業戦略となった。この戦略の正しさは、同社の成功が証明している。
だがゲイツ氏は、時代ははやパソコン期からハイウエー期に移りつつあると言う。本書の後半は、情報ハイウエー構想を展望する。
インターネットは情報ハイウエーのほんの入り口だ。今後、通信コストが劇的に安くなると、想像を絶する社会変動がまき起こる。同時に大きなビジネスチャンスも開けるだろう。通信ビデオ、電子マネー、電子出版、ビデオ会議……。管理職の仕事はなくなる一方、都市から農村に移り住む人びとも多くなる。一時は失業も出るが、長い目でみれば人びとの生活は向上していく。新たな雇用も生まれるはずと、ゲイツ氏の予測は楽観的だ。
《世界で最高の仕事をしていると公言してきたけれど、ほんとうにそう思っている》と語るゲイツ氏のたくましさ。先端の研究者が激烈な競争の火花を散らすアメリカの底力はあなどれない。オウムや住専のぬかるみに足をとられているわが国は、まただいぶ水をあけられてしまった。
【この書評が収録されている書籍】
当年四十歳の氏は、MSーDOSやウィンドウズといったコンピュータ・ソフトの成功で、いまや世界一の大富豪だ。高校でコンピュータに熱中した十七歳の思い出から、激烈な企業競争を勝ち抜いた日々、情報ハイウエーが駆けめぐる未来社会の展望まで、どのページからも、脈うつ時代の躍動が伝わってくる。
本書の前半、コンピュータ業界栄枯盛衰の戦国史がまず、手に汗を握る面白さだ。チップの性能は二年で倍々に向上すると予想された(ムーアの法則)。計算コストがどこまでも安くなるのなら、死命を制するのはソフト。すべてのパソコンによりよいソフトを提供することが、マイクロソフトの企業戦略となった。この戦略の正しさは、同社の成功が証明している。
だがゲイツ氏は、時代ははやパソコン期からハイウエー期に移りつつあると言う。本書の後半は、情報ハイウエー構想を展望する。
インターネットは情報ハイウエーのほんの入り口だ。今後、通信コストが劇的に安くなると、想像を絶する社会変動がまき起こる。同時に大きなビジネスチャンスも開けるだろう。通信ビデオ、電子マネー、電子出版、ビデオ会議……。管理職の仕事はなくなる一方、都市から農村に移り住む人びとも多くなる。一時は失業も出るが、長い目でみれば人びとの生活は向上していく。新たな雇用も生まれるはずと、ゲイツ氏の予測は楽観的だ。
《世界で最高の仕事をしていると公言してきたけれど、ほんとうにそう思っている》と語るゲイツ氏のたくましさ。先端の研究者が激烈な競争の火花を散らすアメリカの底力はあなどれない。オウムや住専のぬかるみに足をとられているわが国は、まただいぶ水をあけられてしまった。
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朝日新聞 1996年3月3日
朝日新聞デジタルは朝日新聞のニュースサイトです。政治、経済、社会、国際、スポーツ、カルチャー、サイエンスなどの速報ニュースに加え、教育、医療、環境、ファッション、車などの話題や写真も。2012年にアサヒ・コムからブランド名を変更しました。
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