書評
『琥珀捕り』(東京創元社)
凄い本読んじゃった。キアラン・カーソンの『琥珀捕り』。A~Zまでを頭文字にとったタイトルからなる全二十六章で構成されていて、その中身はといえばウンチク一色なんである。バカは読んでくれるなとばかりの衒学趣味が横溢してるんだけど、実はバカが読んでも面白い。エンターテインしてる百科事典といった風の小説になっているのだ。
作者を思わせる〈わたし〉がオランダ人のボス氏やポーランド人の船乗りヤルニエヴィッチ氏と交わす数々のお話。〈わたし〉の父が披露する冒険王ジャックを語り手にした『千一夜物語』風のストーリー。この二つの主旋律の中と合間に、ギリシャ神話や昔話や民話、聖人伝、オランダの黄金時代に起きたチューリップ投機熱のエピソード、喫煙の効用を説く魅惑的な屁理屈、エスペラント語を発明した人物の伝記、ボルヘスやフロベールの逸話、望遠鏡や潜水艦の発明譚、フェルメールの贋作者の生涯など、たくさんのウンチクが詰め込まれているんである。あなたね、くりぃむしちゅーの上田やら伊集院光やら、そんなあたりをウンチク王なんて奉ってる場合じゃありませんよ。志低すぎですよ。大体、あの人たちが制限時間以内に思いつきで喋ってる内容が正しいのか、間違ってるのか、一体誰が判定してんですか。勝俣ですよ。いいんですか、そんなことで、ウンチク業界はっ(ALL REVIEWS事務局注:本書評執筆時期は2004年)。
さて、そんな風にウンチク話満載と聞くと、「まとまりに欠ける断片小説なのでは?」と思う方もおられましょう。ところが、さにあらず。各章で語られる物語が、前の章に顔をのぞかせる単語やイメージを尻取りのように拾って展開。ひとつの思考から別の思考へと移ってゆく連想のありようが見事な構成になっているのだ。またタイトルにもあるように、“琥珀”にまつわる様々な雑学や挿話ですべての章をしなやかにつなぐという仕掛けによって、読者は、一見ばらばらな話を読まされているようで、実は見事に織り上げられた一幅の緻密なタペストリーと向かい合っていることに、気づかされるのである。
最後に付された「出典について」も感動的。書くことが、これほど読むこととイコールになっている本も珍しい。ペダンティックでありながら、嫌みを感じさせないという点でも稀少な一冊。知識と物語の宝庫として楽しめる上に、古典調から現代的な語り口まで多種多様なスタイルを駆使した訳文がまた素晴らしい! 正真正銘の傑作だ。
【文庫版】
【この書評が収録されている書籍】
作者を思わせる〈わたし〉がオランダ人のボス氏やポーランド人の船乗りヤルニエヴィッチ氏と交わす数々のお話。〈わたし〉の父が披露する冒険王ジャックを語り手にした『千一夜物語』風のストーリー。この二つの主旋律の中と合間に、ギリシャ神話や昔話や民話、聖人伝、オランダの黄金時代に起きたチューリップ投機熱のエピソード、喫煙の効用を説く魅惑的な屁理屈、エスペラント語を発明した人物の伝記、ボルヘスやフロベールの逸話、望遠鏡や潜水艦の発明譚、フェルメールの贋作者の生涯など、たくさんのウンチクが詰め込まれているんである。あなたね、くりぃむしちゅーの上田やら伊集院光やら、そんなあたりをウンチク王なんて奉ってる場合じゃありませんよ。志低すぎですよ。大体、あの人たちが制限時間以内に思いつきで喋ってる内容が正しいのか、間違ってるのか、一体誰が判定してんですか。勝俣ですよ。いいんですか、そんなことで、ウンチク業界はっ(ALL REVIEWS事務局注:本書評執筆時期は2004年)。
さて、そんな風にウンチク話満載と聞くと、「まとまりに欠ける断片小説なのでは?」と思う方もおられましょう。ところが、さにあらず。各章で語られる物語が、前の章に顔をのぞかせる単語やイメージを尻取りのように拾って展開。ひとつの思考から別の思考へと移ってゆく連想のありようが見事な構成になっているのだ。またタイトルにもあるように、“琥珀”にまつわる様々な雑学や挿話ですべての章をしなやかにつなぐという仕掛けによって、読者は、一見ばらばらな話を読まされているようで、実は見事に織り上げられた一幅の緻密なタペストリーと向かい合っていることに、気づかされるのである。
最後に付された「出典について」も感動的。書くことが、これほど読むこととイコールになっている本も珍しい。ペダンティックでありながら、嫌みを感じさせないという点でも稀少な一冊。知識と物語の宝庫として楽しめる上に、古典調から現代的な語り口まで多種多様なスタイルを駆使した訳文がまた素晴らしい! 正真正銘の傑作だ。
【文庫版】
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