解説
『青い鳥 こどものための 世界童話の森』(集英社)
絵本の大好きな少女時代を送った。同じ物語を、繰り返し繰り返し、飽きることなく読んでいた。
ということはつまり、物語の結末が知りたくて読んでいたのではない、ということだろう。結末なら、一回読めばわかる。
『あおいとり』も、私の大好きな絵本の一つだった。結局は見つからないのだと知りながら、何度も私はミチルになって、青い鳥を探す旅に出かけずにはいられなかった。
途中のさまざまな冒険や、出会う世界が、おもしろくてたまらない。それを味わいたくて、ページをめくるのである。
正直言って少女のころの私は、「青い鳥はとても身近なところにいました」という結末については、とても不満だった。なんだか騙された、という感じ。だってその青い鳥なら、物語の始めからいたじゃない。それじゃない青い鳥を探すために、私たちは出かけたはずでしょう?それなのに、今さらこれでいいだなんて……と、なにか納得できない思いが残った。「ううん、やっぱりきっと、どこかに青い鳥はいるはずだわ。大人たちは、ただあきらめているだけなのよ。自分が探して見つからなかったもんだから、そんなものはいない、ということにしちゃったんだわ。絶対そうよ、そうに決まってる!」
現在、すでに私は、そういう大人の仲間入りをしてしまった。が、振り返ってみると、少女のころのこの思いこみというのは、とても正しいもののように感じられる。
いないかもしれない青い鳥を、理屈ぬきに信じて、どこまでも探そうという心。それゆえに発揮される力強さ。人は大人になるにつれて、そういうものをどんどん失ってしまうのだ。悲しいことではあるけれど。
思春期になって、絵本のうしろに付いている「おうちのかたへ」といったものを読んだときには、へえーっと思った。そこには、青い鳥が幸福の象徴であることをはじめ、さまざまな冒険の意味するところ――たとえば、ぜいたくはみせかけの幸福である、とか、先祖は大切に、といった教訓――が明快に書かれてあった。
「絵本といえども、なかなか奥が深いことであるなあ」と、まだまだ素直であった私は、大いに感心したものである。
が、その後、少し屈折した年頃になると、こういった道徳教育めいた意味づけが、とても嫌なものに感じられるようになった。こんなにいっぱい「意味」があったら、単純に物語を楽しめないじゃない、と思った。これはこれで、青春時代独特の感性であるだろう。
そして今はその時期も過ぎ、むしろもっともっといろいろな「意味」を、この物語から見つけだしたい、と思っている。
たとえば――身近な幸福である青い鳥でさえも、ちゃんと餌をやって籠にいれて、それなりの世話をしなくては、逃げていってしまうのだ、というようなことを。
【この解説が収録されている書籍】
ということはつまり、物語の結末が知りたくて読んでいたのではない、ということだろう。結末なら、一回読めばわかる。
『あおいとり』も、私の大好きな絵本の一つだった。結局は見つからないのだと知りながら、何度も私はミチルになって、青い鳥を探す旅に出かけずにはいられなかった。
途中のさまざまな冒険や、出会う世界が、おもしろくてたまらない。それを味わいたくて、ページをめくるのである。
正直言って少女のころの私は、「青い鳥はとても身近なところにいました」という結末については、とても不満だった。なんだか騙された、という感じ。だってその青い鳥なら、物語の始めからいたじゃない。それじゃない青い鳥を探すために、私たちは出かけたはずでしょう?それなのに、今さらこれでいいだなんて……と、なにか納得できない思いが残った。「ううん、やっぱりきっと、どこかに青い鳥はいるはずだわ。大人たちは、ただあきらめているだけなのよ。自分が探して見つからなかったもんだから、そんなものはいない、ということにしちゃったんだわ。絶対そうよ、そうに決まってる!」
現在、すでに私は、そういう大人の仲間入りをしてしまった。が、振り返ってみると、少女のころのこの思いこみというのは、とても正しいもののように感じられる。
いないかもしれない青い鳥を、理屈ぬきに信じて、どこまでも探そうという心。それゆえに発揮される力強さ。人は大人になるにつれて、そういうものをどんどん失ってしまうのだ。悲しいことではあるけれど。
思春期になって、絵本のうしろに付いている「おうちのかたへ」といったものを読んだときには、へえーっと思った。そこには、青い鳥が幸福の象徴であることをはじめ、さまざまな冒険の意味するところ――たとえば、ぜいたくはみせかけの幸福である、とか、先祖は大切に、といった教訓――が明快に書かれてあった。
「絵本といえども、なかなか奥が深いことであるなあ」と、まだまだ素直であった私は、大いに感心したものである。
が、その後、少し屈折した年頃になると、こういった道徳教育めいた意味づけが、とても嫌なものに感じられるようになった。こんなにいっぱい「意味」があったら、単純に物語を楽しめないじゃない、と思った。これはこれで、青春時代独特の感性であるだろう。
そして今はその時期も過ぎ、むしろもっともっといろいろな「意味」を、この物語から見つけだしたい、と思っている。
たとえば――身近な幸福である青い鳥でさえも、ちゃんと餌をやって籠にいれて、それなりの世話をしなくては、逃げていってしまうのだ、というようなことを。
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