書評

『上杉謙信』(吉川弘文館)

  • 2021/01/09
上杉謙信 / 山田 邦明
上杉謙信
  • 著者:山田 邦明
  • 編集:日本歴史学会
  • 出版社:吉川弘文館
  • 装丁:単行本(322ページ)
  • 発売日:2020-08-31
  • ISBN-10:464205300X
  • ISBN-13:978-4642053006
内容紹介:
越後国の戦国大名。関東管領を務め信玄・信長と対決し、関東出陣を目前に病没。発給文書を中心に生涯を辿り、信仰、人柄に迫る。

学問的な理解を重んじ故郷の英雄を真摯に描く

著者・山田邦明さんは、新潟県出身。私が大学で中世史を学び始めたときに大学院に進学されていて、その研究内容・研究方法・研究姿勢から多くを学んだものだ。また史料編纂(へんさん)所でもご一緒させていただいた。

山田さんは書道を学ばれていたため、崩し字がとてもよく読める。古文書を読解する能力は、現役の中世史研究者中、第一ではないか。また指導にも抜群の才を示され、一枚の古文書を深く掘り下げて、若い研究者や学生が興味を持てるよう、緩急をつけた解説をされていた。

そんな山田さんが故郷の英雄、上杉謙信の生涯を書いた。当然手に汗握るものに違いない、とわくわくしながら読み進めた。しかしながら読了したとき、肩すかしをされたような気になった。謙信の旺盛活発な行動の軌跡は丁寧に叙述されている。だが、ぜひ知りたいと思っていたことが取り上げられていない。謙信の軍事は略奪が目的だったとか、捕虜を取って人身売買をしたとか、生涯不犯(ふぼん)はウソで妻がいたとか、実は女性だったとか、そうした説の真偽はどうなのだろうか。さらにはそもそも、義の武将、という世に定着した評価は妥当なのか。

だが、すぐに思い直した。あの才能溢れる山田さんが「書いていない」。すなわち、それが答えなのだ。2020年現在の段階で、「純粋に学問的な理解」としては、先の諸説はいまだ議論に値する水準にない。著者はそう判断している、と受け取るべきなのだ。そうか、確かにはしがきで、「義の武将」は江戸時代以降に作られたイメージと一刀両断にされていたっけ。

学問に真摯に向き合う研究者が語る、等身大の上杉謙信。それが本書である。きわめて良心的でまっとうな本である。襟を正して再読しよう。
上杉謙信 / 山田 邦明
上杉謙信
  • 著者:山田 邦明
  • 編集:日本歴史学会
  • 出版社:吉川弘文館
  • 装丁:単行本(322ページ)
  • 発売日:2020-08-31
  • ISBN-10:464205300X
  • ISBN-13:978-4642053006
内容紹介:
越後国の戦国大名。関東管領を務め信玄・信長と対決し、関東出陣を目前に病没。発給文書を中心に生涯を辿り、信仰、人柄に迫る。

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初出メディア

サンデー毎日

サンデー毎日 2020年10月25日号

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