書評

『デス・ゾーン 栗城史多のエベレスト劇場』(集英社)

  • 2021/04/05
デス・ゾーン 栗城史多のエベレスト劇場 / 河野 啓
デス・ゾーン 栗城史多のエベレスト劇場
  • 著者:河野 啓
  • 出版社:集英社
  • 装丁:単行本(344ページ)
  • 発売日:2020-11-26
  • ISBN-10:4087816958
  • ISBN-13:978-4087816952
内容紹介:
第18回開高健ノンフィクション賞受賞作。2018年にエベレストで滑落死した人気登山家には、隠し続けてきた秘密があった。

自らの虚像に囚われた登山家の危うい実像

2018年、エベレストへの登頂を目指している最中に滑落死した登山家・栗城史多(くりき・のぶかず)。凍傷で9本の指を切断していた彼はなぜ無謀な挑戦を続けたのか。かつて、彼のドキュメンタリー番組を制作した著者が、疑念を抱えながら、その最期を追う。

冒険・探険にまつわる作品を数多く読んできたが、栗城の著作は通読することができなかった。なぜならば、そこに注がれたメッセージがあまりに直接的で安っぽく思えたから。自身の冒険について、栗城は「冒険の共有」と呼んでいた。冒険の模様を自撮りする理由を「だって、もったいないじゃないですか? こんなに苦労して登っているのに誰も知らないなんて」と述べ、インターネットでの生中継を「夢の共有」と位置付けていた。

多くのスポンサーを興奮させた「単独無酸素での七大陸最高峰登頂」は虚偽表示で、正確な表現では「単独での七大陸最高峰登頂、および無酸素でのエベレスト登頂」だった。栗城は色紙に「無酸素 栗城史多」と書き、自己演出にこだわった。

経営者らが彼の言動に魅せられ、多額の資金が集まる。資金を得たならば、相応の結果を出さなければいけない。結果を出せば、また資金が増える。そのために、結果よりも、どう見られるかを優先し続けた。

いかに自分を知ってもらうか、認めてもらうかを考える。自分も周囲も、やたらと「夢」を連呼し、体力や精神力を鍛えるよりも、夢があれば、夢を集めれば、不可能などないんだ、といった言動を重ねていった。

自ら作り上げた虚像に自ら潰される。認められたい、有名になりたい……SNSに渦巻くような感情を山頂に持ち込んだ。「夢」には、あらゆるビジネスが吸い付いてくる。「夢」に急かされた、危うい実像を知った。
デス・ゾーン 栗城史多のエベレスト劇場 / 河野 啓
デス・ゾーン 栗城史多のエベレスト劇場
  • 著者:河野 啓
  • 出版社:集英社
  • 装丁:単行本(344ページ)
  • 発売日:2020-11-26
  • ISBN-10:4087816958
  • ISBN-13:978-4087816952
内容紹介:
第18回開高健ノンフィクション賞受賞作。2018年にエベレストで滑落死した人気登山家には、隠し続けてきた秘密があった。

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初出メディア

サンデー毎日

サンデー毎日 2020年12月27日号

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