後書き

『こうして絶滅種復活は現実になる:古代DNA研究とジュラシック・パーク効果』(原書房)

  • 2022/07/25
こうして絶滅種復活は現実になる:古代DNA研究とジュラシック・パーク効果 / エリザベス・D・ジョーンズ
こうして絶滅種復活は現実になる:古代DNA研究とジュラシック・パーク効果
  • 著者:エリザベス・D・ジョーンズ
  • 翻訳:野口 正雄
  • 出版社:原書房
  • 装丁:単行本(376ページ)
  • 発売日:2022-06-20
  • ISBN-10:4562071850
  • ISBN-13:978-4562071852
内容紹介:
ネアンデルタール人の全ゲノム解析、絶滅種の再生――誰も信じていなかった古代DNA研究発展の裏にあった知られざる物語。
「恐竜を復活させることはできますか?」1990年代に『ジュラシック・パーク』が大ヒットしてからというもの、科学者たちは何十年も繰り返しこの質問をされつづけ、うんざりしているという。化石から古代DNAを抽出するなど不可能な夢物語だと、かつて科学界で嘲笑されていた古代DNA研究は、奇しくも『ジュラシック・パーク』の映画公開と同時期に飛躍的な発展を遂げた。古代エジプトのミイラのDNAの発見、永久凍土から発見されたマンモスのDNA、絶滅種の再生――常にメディアと大衆の注目を集めるいっぽうで、科学者たちは大いなるジレンマを抱き、分裂していくのだった。

真実の探求か、名声か。華々しい科学報道の裏にあった研究者たちのジレンマを、多くの証言から赤裸々に明かす『こうして絶滅種再生は現実になる』の「訳者あとがき」を抜粋して公開する。

『ジュラシック・パーク』が科学界を変えた

現代では誰もがご存じだろうが、DNA(デオキシリボ核酸)とは遺伝情報を持つ物質であり、ほぼすべての生物の細胞に含まれている。生物を形づくる特徴に関する情報はすべてDNAの中に書き込まれている。遺伝学や遺伝子工学が発達するにつれ、クローンなどの方法により、DNAそのものから個体を生み出すことができるようになってきた。

では、そのDNAさえ手に入れば、はるか昔に絶滅し、もはや化石でしか知ることのできない生き物でも蘇らせることができるのではないだろうか?

これももちろん誰もがご存じの、小説や映画の『ジュラシック・パーク』で描かれた恐竜復活の仕かけである。そのような昔の生物のDNAは「古代DNA(Ancient DNA)」と呼ばれている(本書にも記されているように、正確には必ずしも化石になった生物のDNAのみを指しているわけではない)。

『ジュラシック・パーク』が世に出る前に、社会のさまざまな分野で、このような古生物のDNAの持つ可能性について思いをめぐらせた人たちがいた。当初は夢物語として科学者にまともに相手にされなかったアイデアである。だが、世間の人々の恐竜への関心や想像力とも結びついて、そのようなアイデアは徐々に実際の研究室の中で調べられるようになっていく。

そうした研究の初期に、先駆的な取り組みの成果も踏まえて登場したのが小説や映画の『ジュラシック・パーク』であり、この作品が古代DNA研究の分野に及ぼした影響は決定的なものだったという。本書に描かれるように、この作品は、世間の人々の関心の対象であり、専門家の研究テーマでもある古代DNA研究にとってある意味プラットフォームとしての役割を果たし、通奏低音のようにこの学問の発展に陰に陽に影響を及ぼしてきたのである。

科学を突き動かすのは、期待と夢

著者エリザベス・D・ジョーンズはノースカロライナ州立大学で歴史と哲学を学んでいる。大学で、本書にも出てくる著名な古生物学者で古代DNA研究者のひとり、メアリー・シュワイツァー博士にこの分野の手ほどきを受け、古代DNA研究の世界に深く分け入り、のちに科学史研究者としてこの分野の歴史について深く考察するようになった。

著者の提唱する「セレブリティ科学」とは、すでによく知られた個人レベルの「セレブリティ科学者(カール・セーガン、スティーヴン・ジェイ・グールドなど)」という概念を、集団的営みとしての科学分野全体にひろげて考えるものだ。その中では、通信手段やマスコミ文化の発達を背景として、メディアや世間からこの学問分野に注がれる関心が学問自体と分かちがたく結びついている。古代DNA研究の分野では、『ジュラシック・パーク』の存在がその結びつきの触媒となったことは想像に難くない。本書はそのような文脈で、古代DNA研究の登場から現在に至る発展の歴史を考察していく。

古代DNA研究は、数十年の発展を経ていまでは進化生物学の重要な一翼を担う、地に足の着いた学問になった。その対象には、生物学の諸問題との深い関連性を持つものなど、さまざまな側面がある。

だが、アマチュアの科学好きや世間の人々が絶滅種の再生についてめぐらせた想像が、メディアを媒介にしてこの分野で大きな役割を果たしてきたというのは本当なのだろう。化石や図鑑などでしかその存在に触れられない、恐竜やマンモスなどの大昔の生物が生きて動いている姿を実際に見ることができたなら。そんな誰の心の中にもありそうな夢のエネルギーが、今後もあっとおどろく発見や偉業の後押しをするのかもしれない。本書を読むとそう思えてくるのだ。

[書き手]野口正雄(訳者)
こうして絶滅種復活は現実になる:古代DNA研究とジュラシック・パーク効果 / エリザベス・D・ジョーンズ
こうして絶滅種復活は現実になる:古代DNA研究とジュラシック・パーク効果
  • 著者:エリザベス・D・ジョーンズ
  • 翻訳:野口 正雄
  • 出版社:原書房
  • 装丁:単行本(376ページ)
  • 発売日:2022-06-20
  • ISBN-10:4562071850
  • ISBN-13:978-4562071852
内容紹介:
ネアンデルタール人の全ゲノム解析、絶滅種の再生――誰も信じていなかった古代DNA研究発展の裏にあった知られざる物語。

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