前書き

『ネット世論操作とデジタル影響工作:「見えざる手」を可視化する』(原書房)

  • 2023/04/28
ネット世論操作とデジタル影響工作:「見えざる手」を可視化する / 一田 和樹ほか
ネット世論操作とデジタル影響工作:「見えざる手」を可視化する
  • 著者:一田 和樹ほか
  • 出版社:原書房
  • 装丁:単行本(ソフトカバー)(300ページ)
  • 発売日:2023-03-14
  • ISBN-10:4562072652
  • ISBN-13:978-4562072651
内容紹介:
デジタル社会の「見えざる手」。日常生活から政治・軍事にいたる手法や対応を、豊富な実例と図表を交えてわかりやすく総覧する。
ウクライナや台湾問題でも取り沙汰されるネット世論操作とデジタル影響工作について、8人の専門家のさまざまなアプローチによって「可視化」した書籍『ネット世論操作とデジタル影響工作』より、はじめにを公開します。

デジタル影響工作を網羅的に解明する

本書はデジタル影響工作について異なる分野の専門家が結集して執筆したものである。デジタル影響工作は偽情報(disinformation)、ネット世論操作、認知戦と呼ばれることもある。世界の主要な選挙ではデジタル影響工作が行われ、デジタル影響工作を請け負う民間企業は増加し、マイクロソフトやメタあるいはマンディアントなどの国際的IT企業はこぞってデジタル影響工作への対応を強化している。一般にはあまり知られていないが、安全保障やサイバーセキュリティの世界ではもっとも注目を浴びているテーマと言って差し支えないだろう。アメリカを中心とする民主主義国と中露などの権威主義国の対立の最前線がデジタル影響工作なのだから当然とも言える。

アメリカを中心とした民主主義陣営に属する我々は、ウクライナ侵攻におけるロシアの主張はでたらめだと感じ、世界のほとんどの国がロシアを非難していると思いがちだ。しかし、ラテンアメリカやアフリカなど我々に見えていない地域ではそうではない。欧米によって作られる国際世論はウクライナを支持しているが、世界人口の多くを占める地域の人々はそうではない。日本は世界の少数派になりつつある民主主義陣営に属しており、中国など一部をのぞいて非民主主義の国々の情報がほとんど入らなくなっているから起こる誤解だ。

デジタル影響工作は、デマの流布といった一般的なイメージとは異なり、多様なアプローチで社会の基盤を破壊しつつある。コロナ禍の中、中露はQアノンなどの陰謀論者や白人至上主義者と結びつき、反ワクチンの主張を世界に拡散した。そしてウクライナ侵攻の開始と同時に、Qアノンなどの陰謀論者や白人至上主義者などは一斉に親ロシア、反ウクライナの発言を行った。これもまた我々に見えていない世界での動きだ。こうしたグループが、アメリカ連邦議事堂襲撃事件、ドイツのクーデター未遂事件、ブラジルの暴動を引き起こした。


デジタル影響工作の解明には、国際政治学、メディア論、計算社会学、サイバーインテリジェンスなど異なる領域からのアプローチが必要となる。しかし、これまで日本で刊行されたデジタル影響工作に関する書籍でこれらの分野を網羅するものはあまりなかった。今回、幸いに各分野の専門家に集まっていただき、それぞれの分野からの視点と知見でデジタル影響工作について語っていただくことができた。

本書が新しい世界を理解するための手助けとなれば幸いである。


・目次

はじめに 一田和樹

第1章 デジタル影響工作とはなにか 一田和樹

第2章 デジタル影響工作のプレイブック 齋藤孝道

第3章 世界のメディアの変容――メディア革新と影響工作の新次元 藤村厚夫

第4章 日本のニュース生態系と影響工作 藤代裕之

第5章 デジタル影響工作に対する計算社会科学のアプローチ 笹原和俊

第6章 ロシアによるデジタル影響工作 佐々木孝博

第7章 権威主義国家によるデジタル影響工作と民主主義 川口貴久

第8章 各国のサイバー空間における活動と影響工作 岩井博樹


[書き手]一田和樹(明治大学サイバーセキュリティ研究所客員研究員、作家)
ネット世論操作とデジタル影響工作:「見えざる手」を可視化する / 一田 和樹ほか
ネット世論操作とデジタル影響工作:「見えざる手」を可視化する
  • 著者:一田 和樹ほか
  • 出版社:原書房
  • 装丁:単行本(ソフトカバー)(300ページ)
  • 発売日:2023-03-14
  • ISBN-10:4562072652
  • ISBN-13:978-4562072651
内容紹介:
デジタル社会の「見えざる手」。日常生活から政治・軍事にいたる手法や対応を、豊富な実例と図表を交えてわかりやすく総覧する。

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