動物はヨボヨボにならない。サケは産卵すると脳が縮んですぐ死ぬ。動物はたいてい元気なままコテンと死に、誰かに食べられてしまう。
ヒトだけが老いても長く生きるのはなぜか。子育ては手間がかかる。《おばあちゃんが元気で長生きな家族ほど…子だくさん》で、進化に有利だった(おばあちゃん仮説)。壊れた遺伝子を修復する能力も高くなった。集団の知恵を蓄積し結束をはかるのに老人は役立ったのだ。
著者は言う。生まれるのは偶然でも死は必然。生物が進化するのに必要な、究極の利他的行為だ。遠からず死ぬと意識するシニアは、《次世代を育て集団をまとめる調整役になれる》。高齢化社会は生物進化の到達点、相応の利点があるわけだ。
本書の提案は、《「老い」を老いずに生き》よう。前向きだ。子孫を残し仕事に励む現役世代から、シニアは一歩退いている。人生のごほうびに当たる時期だ。だが能力はまだまだ高い。現役に混じって働ける。だから少子化のいま、年齢で区切る定年は不合理だ。公共のためにも活動し、《老年的超越》の境地に近づくひともいる。進化生物学の裏付けのある、元気の湧くシニア論だ。