後書き
『[図説]世界の外食文化とレストランの歴史』(原書房)
コロナ禍がようやく終息に向かいつつあるいま、お気に入りのレストランに足を延ばし、ちょっとした非日常を楽しんでいる人も多いのではないだろうか? しかしそんなふうに、外食に喜びを見出すのは現代人だけではなかったようだ。古代ローマでは、庶民も貴族も同じものを酒場で口にし、中世では旅人たちが見たこともない珍しい食べ物に舌鼓を打った。フランス革命で投獄された貴族たちはこっそりレストランと契約して、牢屋にごちそうを運ばせていたという。最後の食事のためとはいえ、なんとも命がけのフードデリバリーだ。
ではそもそも、「レストラン」というものが誕生したのはいつだったのか? 外食文化の発展とその裏に隠された物語を紹介する『[図説] 世界の外食文化とレストランの歴史』より、「訳者あとがき」を抜粋して公開する。
外食というと、レストランでとる、ふだんより豪華な食事というイメージ。そして、外食がお金持ちの特権ではなく、庶民にも手が届く贅沢になったのは比較的最近のことだと思っていらっしゃるのではないでしょうか。
ところが、外食をテーマにした本書の始まりは、なんと古代ローマ時代のポンペイ。当時は「レストラン」という言葉はまだなくて、外食の場は居酒屋や旅籠でした。楽しみのための外食というよりは、自宅にキッチンがないので、外で食べるか、テイクアウトを利用するしかないのが実情だったのです(ポンペイの居酒屋では、通りに面したカタウンターでテイクアウト販売していました)。
ちなみに、「レストラン」という言葉が使われるようになったのは18世紀半ば、ブーランジェというフランス人がパリに開いた食堂で、レストラティブ(回復食)と銘打った、温かいスープを提供したのが始まりだそうです。
この本でとりあげる外食には、旅先での食事も含まれます。旅といっても昔は命がけの冒険でした。泊まるところも主として修道院といった宗教施設で、旅人は一宿一飯のもてなしを受けたのでした。また、オスマン帝国など古代国家の国王にとって、食事は公開の儀式であり、外で待ち受けている臣民にも料理がふるまわれました。そうした食事も外食に含まれます。外食といっても、なかなか奥が深いですね。
前半では、著者が博識ぶりを遺憾なく発揮して、時代背景を説明しながら当時の人々の生活を生き生きと描いています。後半では、たとえば、日本の回転寿司がまたたくまに世界に広がった経緯、パスタやタコスといった移民が持ち込んだ郷土料理が移住先で思わぬ変化を遂げた理由、ミシュラン評価を気に病んで自死した有名シェフの話、さらには、食欲を満たすよりも五感を刺激するのが目的の未来型レストランの紹介まで、興味深い話題が続きます。
盛りだくさんなので、面白そうだと思われたところから読んでいただいてもいいでしょう。各章は完全に独立しているわけではありませんが、どこから読んでも前後関係がわからなくなる心配はありません。ときにはテーマが外食や料理から離れてしまうこともありますが、そのあたりも楽しんでいただければ幸いです。
最後に著者を簡単にご紹介しておきましょう。
著者ウィリアム・シットウェルは、イギリスの有名なフードライターで、新聞や雑誌にレストラン評論を発表するほか、テレビの料理番組の審査員も務めています。本書のほか、A History of Food in 100 Recipes(『食の歴史 100のレシピをめぐる人々の物語』柊風舎、栗山節子訳)、Eggs or AnarchyやThe Really Quite Good British Cookbookといった著書があり、いずれも高く評価されました。また、イギリス各地で珍しい料理を提供するサパークラブを主催するなど、幅広く活動しています。
著者自身、この本に収めきれなかったエピソードやレストランはたくさんあると序章に記しています。この本の続編でそんな話を読んでみたいものです。
[書き手]矢沢聖子(英米文学翻訳家)
ではそもそも、「レストラン」というものが誕生したのはいつだったのか? 外食文化の発展とその裏に隠された物語を紹介する『[図説] 世界の外食文化とレストランの歴史』より、「訳者あとがき」を抜粋して公開する。
「レストラン」が誕生したのはいつ?
『[図説]世界の外食文化とレストランの歴史』という書名から、みなさんはどんな内容を思い浮かべられるでしょうか。外食というと、レストランでとる、ふだんより豪華な食事というイメージ。そして、外食がお金持ちの特権ではなく、庶民にも手が届く贅沢になったのは比較的最近のことだと思っていらっしゃるのではないでしょうか。
ところが、外食をテーマにした本書の始まりは、なんと古代ローマ時代のポンペイ。当時は「レストラン」という言葉はまだなくて、外食の場は居酒屋や旅籠でした。楽しみのための外食というよりは、自宅にキッチンがないので、外で食べるか、テイクアウトを利用するしかないのが実情だったのです(ポンペイの居酒屋では、通りに面したカタウンターでテイクアウト販売していました)。
ちなみに、「レストラン」という言葉が使われるようになったのは18世紀半ば、ブーランジェというフランス人がパリに開いた食堂で、レストラティブ(回復食)と銘打った、温かいスープを提供したのが始まりだそうです。
この本でとりあげる外食には、旅先での食事も含まれます。旅といっても昔は命がけの冒険でした。泊まるところも主として修道院といった宗教施設で、旅人は一宿一飯のもてなしを受けたのでした。また、オスマン帝国など古代国家の国王にとって、食事は公開の儀式であり、外で待ち受けている臣民にも料理がふるまわれました。そうした食事も外食に含まれます。外食といっても、なかなか奥が深いですね。
三ツ星のために自殺したシェフ
この本では、前半の1章から9章までが、古代から近代までの外食に関する解説、後半の10章から18章までが、その後の外食文化の変遷を、それぞれの時代を象徴するレストランをとりあげて説明する、といった形をとっています。前半では、著者が博識ぶりを遺憾なく発揮して、時代背景を説明しながら当時の人々の生活を生き生きと描いています。後半では、たとえば、日本の回転寿司がまたたくまに世界に広がった経緯、パスタやタコスといった移民が持ち込んだ郷土料理が移住先で思わぬ変化を遂げた理由、ミシュラン評価を気に病んで自死した有名シェフの話、さらには、食欲を満たすよりも五感を刺激するのが目的の未来型レストランの紹介まで、興味深い話題が続きます。
盛りだくさんなので、面白そうだと思われたところから読んでいただいてもいいでしょう。各章は完全に独立しているわけではありませんが、どこから読んでも前後関係がわからなくなる心配はありません。ときにはテーマが外食や料理から離れてしまうこともありますが、そのあたりも楽しんでいただければ幸いです。
最後に著者を簡単にご紹介しておきましょう。
著者ウィリアム・シットウェルは、イギリスの有名なフードライターで、新聞や雑誌にレストラン評論を発表するほか、テレビの料理番組の審査員も務めています。本書のほか、A History of Food in 100 Recipes(『食の歴史 100のレシピをめぐる人々の物語』柊風舎、栗山節子訳)、Eggs or AnarchyやThe Really Quite Good British Cookbookといった著書があり、いずれも高く評価されました。また、イギリス各地で珍しい料理を提供するサパークラブを主催するなど、幅広く活動しています。
著者自身、この本に収めきれなかったエピソードやレストランはたくさんあると序章に記しています。この本の続編でそんな話を読んでみたいものです。
[書き手]矢沢聖子(英米文学翻訳家)
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![[図説]世界の外食文化とレストランの歴史 / ウィリアム・シットウェル](https://m.media-amazon.com/images/I/51SDF0fTrIL._SL500_.jpg)





























