『世界のLGBTQ+の歩き方:体験から文化、歴史、ナイトライフ、追悼まで』(原書房)

旅は人生を豊かにし、自由を与えてくれるもの。しかしLGBTQ+の人たちにとって、旅は一筋縄ではいかないこともあるという。なんといまだに約70ヵ国で同性愛が犯罪とされていて、30ヵ国以上でトランスジェンダーの存在が違法とされているからだ。医薬品を持って旅行をする場合や、パスポートの性別表示が生物学的な性別とは異なる場合、必要な書類や医師の診断書がそろっているかどうか注意を払う必要もある。だが一歩踏み出してみれば、そこにはありのままの自分で楽しむことのできる素晴らしい世界が広がっていることだろう。
たとえば、世界のクィア文化にふれる旅もそのひとつ。ニューヨークのプライド・マーチ発祥の地やベルリンにある世界初のゲイ地区といった大都市の必見スポットから、サンパウロにあるトランス・ジェンダーのデザイナーによる洋服店、ネパール初のLGBTQ+レストランといった穴場スポットまで。LGBTQ+の多様な旅行ブロガー・チームが、北米、ヨーロッパ、アフリカ、アジアのエリア別に最高のクィアスポット500カ所を一挙に紹介する究極のガイドブック『世界のLGBTQ＋の歩き方』より、「はじめに」を一部抜粋して公開する。

LGBTQ＋に必要な旅の準備

物心ついたときから、広い世界を見て、異なる文化に浸ってたくさんの人から学びたいと思っていました。やがて最愛の恋人となるひとりの旅人と出会ったわたしは、当然のごとく世界を回る旅に出ました。それから先のノマド生活はわたしの目、精神、心を開いてくれました。女性同士のカップルが旅行に行くには、シスジェンダーで異性愛者の人たちが旅行をするよりも入念に準備し、現地に溶け込み、秘密を隠す必要があります。
世界は完璧ではありません。国によっては虹色の旗を振るという単純な行為でさえ命が危険にさらされることもあります。これを書いている時点でおよそ70ヵ国で同性愛が違法とされ、30ヵ国以上でトランスジェンダーの人権と言論の自由が事実上制限されています。
しかし、嬉しいことも増えています。30ヵ国以上で同性の結婚が認められているし、15ヵ国でパスポートでのニュートラルな性別表示が許可されています。世界はつながりを深め、コミュニティ同士が出会い、一度は沈黙させられた声が再び耳に届くようになってきました。世界中で行われている解放運動によってインターセクショナリティへの理解が深まり、クィア文化のリバイバルが起こっています。

クィア文化にふれ、連帯する旅へ

これまでも常に存在してきたクィアの人々をいっしょくたに語ることはできません。ひとりひとりがまったく異なる存在なのです。LGBTQ+の旅行者は世界中のクィアとつながり、そのビジネスを支援し、LGBTQ+文化に対する新しい視点を持てるようになります。
誰だって旅行を楽しむことができます。世間が信じていることとは違い、旅行にはいろいろな形があるからです。本書のすべてのスポットがあらゆる人の好みに合うことはありえませんが、誰でもいくつかはお気に入りの場所を見つけられるはず。誰でも夢に描いた旅行に出かけ、あふれるクィアの喜びを味わい、祝福される権利があるのです。
LGBTQ+の旅行の目的はパレードやクィアのナイトライフだけではありません。モニュメントや連帯活動、博物館、書店、レストラン、キャンプ場、それからハネムーンに最適な場所だってあります。本書ではそのような場所を500ヵ所、地域ごとに5つの章に分けて紹介します。特に難しかったのは、クィアの旅行者の安全と地理的な多様性のバランスを取ることでした。特定の地域でクィア文化がより際立っていて危険が少ないのは事実で、一部の地域がたくさん紹介されているのはそのためです。でも、だからといって本書の内容がすべてだとは思わないでください。人は世界中のあらゆる場所にいて、アンダーグラウンドなシーンを見つけるにはより深く潜っていかなければならないこともあります。
本書が読者の視野を広げ、世界に飛び出すきっかけになってくれれば嬉しいです。さまざまな人と話して学び、偏見を解いて（わたし自身も寄稿してくれた仲間からたくさんのことを学びました）、心を開いてください。ジェンダーと同じように、世界は単純ではありません。旅は白と黒では表せないし、良い旅も悪い旅も、正しい旅も間違った旅もありません。美しい変化に満ちていて、生きがいを与えてくれ、さまざまな色であふれているのです。

［書き手］マルティエ・ハンセン（クィア旅行家、写真家）
オランダ出身。パートナーであるロクサーヌ・ウェイジャーとともに旅行・ライフスタイルブランド〈Once Upon a Journey〉を立ち上げる。ふたりで3年間世界を放浪したあと、現在はアムステルダムに拠点を置く。マルティエはLGBTQ +に特化した写真ビジネスも展開している。