死が起こす波すくい取る
この小説を読んでいて思い出したのは、東日本大震災の後、名前を知っている人も、そうではない人でも、訃報が届くと、それまでとは違った衝撃があったということ。死に対して過敏になっている部分が誰にもあったのではないか。この小説の舞台は、震災の後の3年間。スティーブ・ジョブズや元X JAPANのTAIJIなど、亡くなった人のことが登場人物の何気ない日常に入り込んでくる。マンモス大学で突然ナースの恰好をさせられる春菜、一人で息子を育てるゲームオタクの美里、美人清掃員の神子。彼らの日常を繊細な手つきで描きながら、人の死が起こす小さな波を掬(すく)い取る佳作。長嶋ワールド全開。あの頃の感覚が甦る。