書評
『泣かない女はいない』(河出書房新社)
子供の頃「おとこ女」と呼ばれておりましたの。つまり、男みたいな女ってことだすわね。だすわよ。で、いわゆる女心というものを解さないまま成長し、たとえば初対面の女子に「土偶に似てるね」とか言って顰蹙(ひんしゅく)をかうに至っているわけですが、はにわ顔のオデにとっては土偶って目がぐりぐりしてて可愛いという範疇に入るんであって、なので周囲の女子から「デリカシーなさすぎ!」と一方的に叱られても半ば撫然とする他ないんでございますの。ダメ? ダメだすわね。だすわよ。
というわけで、たまげるのが長嶋有の中篇二本と、カバー裏に印刷された書き下ろしショートストーリーが収められた『泣かない女はいない』なんであります。大手電機会社の子会社に勤めるようになった三〇代前半とおぼしき女性の日常を描く表題作。夫に浮気をされ、離婚寸前の状態にある女性の心象風景を綴った「センスなし」。インターネットの出会い系サイトで知り合ったカップルの初めてのデート、その一場面を切り取った「二人のデート」。どれを読んでも、おとこ女のトヨザキ感服つかまつり候の巻。もーね、すべての婦女子は読むべきですよ。のけぞりますから。なんでこんなに女子の気持ちがわかるんだよ、てめーナニモンだよっ、あ~?長嶋有の胸元つかんでがっくんがっくん揺らしながら問い詰めたくなりますから。
なんつーこたあないんです。派手な事件が起きるわけでも、際立つキャラクターが登場するわけでも、チワワがうるんだ瞳でこっちを見上げるわけでも何でもない。どこにでもいるような平凡な女子の、部外者にとっちゃどーでもいいっちゃあどーでもいい日常が描かれてるだけ。ところがっ! それがしみるの、心のうんと奥のほうまで少しずつ、だけど確実に潤ってきちゃうの。で、泣かせるために書かれたあざとい場面なんてひとつもないのに、油断してると喉(のど)がぎゅんと詰まって、でもって目が濡れてきちゃうんですの。
わたしら無名人の生なんて、自分以外には意味も価値もないんでありましょうよ。でも、たしかに取るに足らないのかもしれないけど、比類だってない。日常の中にあるささやかなエピソードと、まちまちの感情。これは、ささやかでまちまちだからこそ、一人一人の生がかけがえのないことを伝えて、静かな、でも確固たる共感を呼ぶ作品集になっているんです。しかも、男中心社会にあっては男子よりもさらに無体に扱われがちな女子の心に寄り添って。おんな男――長嶋有にそんな尊称を贈りたいわたくしです。
【この書評が収録されている書籍】
というわけで、たまげるのが長嶋有の中篇二本と、カバー裏に印刷された書き下ろしショートストーリーが収められた『泣かない女はいない』なんであります。大手電機会社の子会社に勤めるようになった三〇代前半とおぼしき女性の日常を描く表題作。夫に浮気をされ、離婚寸前の状態にある女性の心象風景を綴った「センスなし」。インターネットの出会い系サイトで知り合ったカップルの初めてのデート、その一場面を切り取った「二人のデート」。どれを読んでも、おとこ女のトヨザキ感服つかまつり候の巻。もーね、すべての婦女子は読むべきですよ。のけぞりますから。なんでこんなに女子の気持ちがわかるんだよ、てめーナニモンだよっ、あ~?長嶋有の胸元つかんでがっくんがっくん揺らしながら問い詰めたくなりますから。
なんつーこたあないんです。派手な事件が起きるわけでも、際立つキャラクターが登場するわけでも、チワワがうるんだ瞳でこっちを見上げるわけでも何でもない。どこにでもいるような平凡な女子の、部外者にとっちゃどーでもいいっちゃあどーでもいい日常が描かれてるだけ。ところがっ! それがしみるの、心のうんと奥のほうまで少しずつ、だけど確実に潤ってきちゃうの。で、泣かせるために書かれたあざとい場面なんてひとつもないのに、油断してると喉(のど)がぎゅんと詰まって、でもって目が濡れてきちゃうんですの。
わたしら無名人の生なんて、自分以外には意味も価値もないんでありましょうよ。でも、たしかに取るに足らないのかもしれないけど、比類だってない。日常の中にあるささやかなエピソードと、まちまちの感情。これは、ささやかでまちまちだからこそ、一人一人の生がかけがえのないことを伝えて、静かな、でも確固たる共感を呼ぶ作品集になっているんです。しかも、男中心社会にあっては男子よりもさらに無体に扱われがちな女子の心に寄り添って。おんな男――長嶋有にそんな尊称を贈りたいわたくしです。
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