人は、イングランドのことをあまりよくわかっていない
緑美しい田園風景、絵本から飛びでてきたようなメルヘンな村々、古きよき歴史を残す中世都市、流行をリードするロンドン、音楽、文学、映画、ファッション、スポーツ、ロイヤルファミリー、パブ、紅茶……。英国(正式にはグレートブリテン及び北アイルランド連合王国)は、挙げればキリがないほど多方面に魅力のあふれる国です。日本で暮らす日本人のわたしたちにも、たくさんのイメージがパッと思い浮かんでくる、とてもなじみ深い国かと思います。しかしその一方で、わたしたちは、英国という国をどのくらい正確に理解できているでしょうか? なんとなくは知っているけれど、実はあまりよくわかっていない……という方も多いのではないでしょうか?
やや辛辣な指摘に聞こえてしまったかもしれません。ですが、気後れする必要はまったくありません。世界中の多くの人たちも(アメリカのあの大統領も)、さらには英国に住んでいる英国人だって、本当のことはよくわかっていないのですから、と本書の著者のマット・ブラウンは書いています。
というのも、英国とは4つのカントリーからなる連合王国であり、歴史を通じて、それぞれの国が対立したり、連合したり、独立を求めたりと、単一国家にはない複雑な関係性の中で発展してきた経緯があるからです。とくに単一国家の日本に住むわたしたちには、想像の及ばない部分もあるでしょう。さらに日本には、ブリテンだの、英国だの、イングランドだの、連合王国だの、UKだの、同じ国を指す呼称がいくつも存在します。これでは混乱するのも仕方ありません。
そもそもイングランドと英国って同じじゃないの? とアメリカ大統領のような疑問をお持ちの方は、本書の冒頭に定義づけがなされているので、そちらをまず確認してみてください。でも、どうか深みにはハマらずに。イングランドが英国の中のカントリーのひとつだということだけ理解できれば大丈夫。あとは本書を思いっきり楽しんでください! 読み進めているうちに、きっとイングランド、ひいては英国通になっているはずです。
本書は、そんな英国の中のカントリーのひとつであるイングランド(イングランドに絞っている理由についても、著者の冒頭の言い訳をご覧ください)について、これまで語り継がれてきた俗説の嘘偽りを、根掘り葉掘り、ブリティッシュユーモアたっぷりに暴いていきます。一般常識や固定概念、伝統や時代の隔たりによって、真実がいかにコーティングされてしまっているか、はっと気づかされることでしょう。インターネットなどであらゆる情報が錯綜している昨今、その正しさや意図を見極める力がより問われるようになってきています。事実をどこまでも追い求める著者の姿勢には、参考になるところがたくさんあるように思います。中には、揚げ足取りのようなものもありますが(笑)。
このように、本書は軽やかなタッチのおもしろ雑学本と言えるかもしれませんが、扱われているトリビアは歴史、文化、芸術、伝説、地理など多岐にわたります。ビターな皮肉とアカデミックな教養が共存する本書は、矛盾に満ち、すっきり割り切れない厄介ごとでいっぱいのイングランドを紹介するのにじつにふさわしい1冊ではないでしょうか。ぜひ、おおいに笑いながら、知識を深めていただければ幸いです。
[書き手]風早さとみ(翻訳者)