作家論/作家紹介

【ノワール作家ガイド】ジョー・R・ランズデール『凍てついた七月』(角川書店)、『罪深き誘惑のマンボ』(角川書店)、『テキサス・ナイトランナーズ』(文藝春秋)

  • 2019/07/12
一九五一年、テキサス生まれ。さまざまな職を転々としたのち、一九八一年、長篇ノワール『Act of Love』を発表、専業作家となる。以降、スプラッタパンク・ホラー『The Drive-In』からウェスタンまでに至るさまざまな作品を上梓する。長篇『Savage Season』で登場した白人ハップと黒人レナードの連作は高い評価を受け、五作書かれている。
コミック界との交流も深く、マカロニ・ウェスタン調のコミック『Jonah Hex:  The Two-Gun Mojo』の原作を手がけ、自身の小説のコミック版を収めた『Atomic Chili』という作品集も出版している。

ジョー・R・ランズデールの作品から立ち上ってくるのは、強烈なアメリカの匂いだ。それも北部の都市の匂いではない。埃っぽくエスニックな風合いすらある、アメリカの田舎の、南部の、未開のアメリカの匂いだ。

ランズデール作品中で、もっともキャッチーであるハップ&レナード・シリーズですら、上品な読者の眉をしかめさせるアクのつよさが横溢している。ノンケの白人ハップと、ホモの黒人レナード。下品な冗談を吐き散らし、邪魔者は腕力でねじ伏せるこのふたりが、さまざまな事件に巻き込まれ、解決する、というのがシリーズの筋立てである。

右に挙げたふたりの属性を見ればわかるように、このふたりは、無教養なアメリカ人の典型として描かれている。ふたりが暮らす町も、洗練とは無縁の田舎町だし、ふたりが相対する敵も然り。野卑なユーモアを湛えて無謀に突っ走る物語は、正しいハードボイルドの構造と、その祖型たる西部小説の構造を遵守しているが、ありふれたヒロイズムはそこにはなく、ただ感情の赴くままに、倫理以前の粗野な「正義感」が振るわれてゆくのだ。

ランズデールの巧みなストーリーテリングとユーモアのセンスによって、このシリーズは現代ではめずらしい痛快な活劇小説になっているのだが、このシリーズだけを見ても、ランズデールの全体像は見えてこない。

ランズデールのホラーの分野での代表作とされている、超自然の要素をほとんど排した作品『The Nightrunners』をみてみよう。ホラーの分野で評価されてはいるが、これはおそらくランズデールのノワール作品として最上の作品である。自分をレイプしたふたりの高校生を警察に通報した女が、その傷を癒すべく夫とともに別荘へ向かう物語と、留置場で自殺した相棒のために、自分たちを売った女に復讐すべく追跡をはじめるレイプ犯の少年の物語が交互に語られる形式をとっている。非暴力を標榜する夫が、このふたりにいかに対処するのか、という興味もあるが、何より強烈なのは、「男の子はいつまでも男の子」と題された第二部第一章で語られる、ふたりの少年の「壊れた」無慈悲さだ。スプラッタ的な暴力が爆発を繰り返しつつ疾走するさまは、『時計じかけのオレンジ』を彷彿させる。

さらにコメディ・ホラー『The Drive-In』を見ると、B級ホラー映画に笑い転げるような無教養で刹那的な高校生たちが殺戮に走るさまが、小馬鹿にするような筆致で描かれている。どうやらランズデールは、アメリカのブルーカラー・カルチャーを作品の重要なモチーフにしているように見える。ビールを喰らい、肉を貪り、ホラー映画が好きでカントリー&ウェスタンを聞き、男らしさを誇示するような連中の文化。アメリカに厳然として存在するマチズモ、と要約してしまってもいい。ロバート・B・パーカーのようにそれを単細胞に称揚しているわけではない。アメリカ的マチズモの醜悪な面もそうでない面も、ランズデールは描いているのだ。

ハップ&レナード作品にはウェスタンの味がある、と書いたが、おそらくそれが、アメリカの伝統的なマチズモの美点が描かれた例だ。ロバート・B・パーカーが(めずらしく賢明に)述べたように、ハードボイルドはウェスタンの伝統にあるわけで、それはすなわち、アメリカ的倫理の原型が、マチズモの力の論理、質実剛健の美意識に直結していることを示す。無法者の襲撃を撃退せんとする父親の苦境で幕を開ける『凍てついた七月』もそうだ。だがランズデールは、そうした物語を南部の田舎におくことで、アナクロニズムの皮肉を効かせるのを忘れてはいない。

一方で、『The Nightrunners』は、その第二部の題名が如実に示すように、アメリカ的マチズモ――暴力肯定主義の醜悪さの現れだ。非暴力の教師を襲撃する不良少年という構図は、北部人的なスノビズムと南部人的な無教養なマチズモの衝突を象徴している(このへんの周到さと比べると、マチズモ礼讃を謳うR・B・パーカーの無自覚さが判りやすい)。

こうしたアメリカ的「倫理」の暴力性を、無慈悲なスタイルで描いたという点で、ランズデールをフラナリー・オコナーやウィリアム・フォークナーあたりのサザン・ゴシックと結びつけることもじゅうぶん可能だろう。

ランズデールが捉えようとしているのは、ヤンキーが書こうとしないアメリカ人の姿だ。未だ暴力的な倫理が幅を利かせているアメリカの。『The Nightrunners』や『凍てついた七月』は、これまでヤンキー(的文化)が正統ハードボイルドのかたちで描いてきたアメリカの伝統的な「力の正義」を、土着的な切り囗で描いたものだ。それは正統ハードボイルドが掲げる大文字の「正義」やらロマンティシズムやらを、スノッブなファンタジーに見せてしまう剛直さと無慈悲さを持っている。

ランズデール作品は、いわゆる「ノワール」とはいささか趣を異にするものかも知れない。だがランズデールがアメリカ的暴力の醜悪な面を描くとき、それはアメリカ自体を批判する、鋭利なノワールとして結実するのだ。

【必読】『凍てついた七月』(角川文庫)、『罪深き誘惑のマンボ』(同左)、『The Nightrunners(邦題:『テキサス・ナイトランナーズ』)』(文春文庫)

凍てついた七月 / ジョー・R. ランズデール
凍てついた七月
  • 著者:ジョー・R. ランズデール
  • 出版社:角川書店
  • 装丁:文庫(276ページ)
  • 発売日:1999-09-01
  • ISBN:4042701035

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罪深き誘惑のマンボ / ジョー・R. ランズデール
罪深き誘惑のマンボ
  • 著者:ジョー・R. ランズデール
  • 出版社:角川書店
  • 装丁:文庫(398ページ)
  • 発売日:1996-08-01
  • ISBN:4042701019

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テキサス・ナイトランナーズ /
テキサス・ナイトランナーズ
  • 出版社:文藝春秋
  • 装丁:文庫(390ページ)
  • ISBN:4167527979

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初出メディア

ユリイカ

ユリイカ 2000年12月臨時増刊号

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