コラム

沼野 充義「2023年 この3冊」毎日新聞|<1>四方田犬彦『大泉黒石 わが故郷は世界文学』(岩波書店)、<2>ビタリー・テルレツキー『サバキスタン 全3巻』(トゥーヴァージンズ)、<3>サヴィヨン・リーブレヒト『砂漠の林檎 イスラエル短編傑作選』(河出書房新社)

  • 2025/03/09

2023年「この3冊」

<1>四方田犬彦『大泉黒石 わが故郷は世界文学』(岩波書店)

<2>ビタリー・テルレツキー『サバキスタン 全3巻』(トゥーヴァージンズ)

<3>サヴィヨン・リーブレヒト『砂漠の林檎 イスラエル短編傑作選』(河出書房新社)

<1>は、日本文学史からほとんど忘れ去られていた、ロシア人を父とする作家の破天荒な生涯と作品を論じた初めての本格的評伝。黒石がいかにユニークな存在であったかよく分かる。また、彼を排斥した日本文壇の狭量さも見えてくる。

<2>はロシア出身の若手二人組による、架空の独裁国家を描いた漫画。全体主義をこのようにパロディーにした作品が、今ロシア人のアーティストから発信されたことには大きな意味がある。ロシアは決してプーチン支持一色ではない。

<3>は、ヘブライ語文学の第一人者による、イスラエル文学のオリジナル・アンソロジー。現代のイスラエルの文化は、強硬にガザを破壊するような政治家に決して代表されるわけではない。本書を読めば、もっと多彩で、複雑で、繊細な陰影に富んでいることがよく分かる。

大泉黒石: わが故郷は世界文学 / 四方田 犬彦
大泉黒石: わが故郷は世界文学
  • 著者:四方田 犬彦
  • 出版社:岩波書店
  • 装丁:単行本(228ページ)
  • 発売日:2023-04-13
  • ISBN-10:4000615939
  • ISBN-13:978-4000615938
内容紹介:
コスモポリタン文学の先駆者、百年を経てついに蘇る!「俺は国際的の居候」と嘯く大泉黒石、またの名をキヨスキー。ロシア人を父に持ち、ヨーロッパを股にかけた少年時代。『中央公論』連載の… もっと読む
コスモポリタン文学の先駆者、百年を経てついに蘇る!「俺は国際的の居候」と嘯く大泉黒石、またの名をキヨスキー。ロシア人を父に持ち、ヨーロッパを股にかけた少年時代。『中央公論』連載の『俺の自叙伝』で話題を呼び、異国情緒と怪奇趣味の短編で一世を風靡するものの国粋色に染め上がった文壇から追放され、零落の晩年を過ごす。波瀾万丈の人生を送った大正時代のベストセラー作家、初の評伝。

目次
虚言の文学者
トルストイを訪問した少年
二冊のロシア巡礼記
黒石、売り出す。
『俺の自叙伝』
周縁と下層
とうとう文壇追放
『露西亜文学史』
老子の肖像1
『血と霊』の映画化
差別と告白、そして虚無
幻想都市、長崎
混血と身体の周縁
峡谷への情熱
奇跡の復活『おらんださん』
戦時下の著作
戦後の零落
黒石の文学

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。


サバキスタン 1 / ビタリー・テルレツキー,カティア
サバキスタン 1
  • 著者:ビタリー・テルレツキー,カティア
  • 翻訳:鈴木 佑也
  • 出版社:トゥーヴァージンズ
  • 装丁:コミック(164ページ)
  • 発売日:2023-08-09
  • ISBN-10:4910352813
  • ISBN-13:978-4910352817
内容紹介:
永らく国境を閉ざしていた謎の独裁国家「サバキスタン」はある日、国境を開放した。偉大なるサバキスタンの栄華を世界に伝えるため、世界各国のジャーナリストたちが招かれた。その日、同国で… もっと読む
永らく国境を閉ざしていた謎の独裁国家「サバキスタン」はある日、国境を開放した。偉大なるサバキスタンの栄華を世界に伝えるため、世界各国のジャーナリストたちが招かれた。その日、同国では全国民から敬愛を受ける国父、リーダーである「同志相棒」の葬儀のリハーサルイベントが行われようとしていた。サバキスタンの工場に努める女性・ハーモニーもその名誉あるイベントへの参加を許されたひとり。彼女は喜びと誇らしい気持ちを胸に会場となるスタジアムへと向かった。
同志相棒に招かれた世界的ジャーナリストのアンリ・パスカルもまた、宮殿内で同志相棒から歓待を受けていた。すべてが豪華絢爛で見事に設えられた奇妙な空間の中、アンリ・パスカルはふと戯れに、庭にある一本の木の枝を折ってしまう。その木は若き同志相棒が植樹した神聖なものであり、それを傷つけることは大罪であった…。
架空の独裁国家における不自由や弾圧、陰謀、歴史の改ざん。そして人々の真実を求める心、抵抗、愛する国への願い――。迷える大国・ロシアから届いた、自由の意義を問いかけるアンチ独裁グラフィック・ノベル!

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。


砂漠の林檎: イスラエル短篇傑作選 / サヴィヨン・リーブレヒト,ウーリー・オルレブ
砂漠の林檎: イスラエル短篇傑作選
  • 著者:サヴィヨン・リーブレヒト,ウーリー・オルレブ
  • 翻訳:母袋 夏生
  • 出版社:河出書房新社
  • 装丁:単行本(264ページ)
  • 発売日:2023-08-26
  • ISBN-10:4309208908
  • ISBN-13:978-4309208909
内容紹介:
迷宮のような路地で見つけた写真集、不死の老人、ショアの記憶、聖書物語など、イスラエル文学紹介の第一人者による日本語版オリジナル・アンソロジー。ウーリー・オルレブ(国際アンデルセン… もっと読む
迷宮のような路地で見つけた写真集、不死の老人、ショアの記憶、聖書物語など、イスラエル文学紹介の第一人者による日本語版オリジナル・アンソロジー。ウーリー・オルレブ(国際アンデルセン賞受賞)、シャイ・アグノン(ノーベル文学賞受賞)など、世界が高く評価する作家の傑作を精選。

砂漠の林檎
コーヒーふたつ
日記の一葉
リンカ
ラファエル
最後の夏休み
ビジネス
太陽を摑む
ユダヤ民話 女主人と行商人
オーニスサイド
ショレシュ・シュタイム
狭い廊下
弟子
息子の墓
老人の死
神の息子

聖書物語

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。

  • 週に1度お届けする書評ダイジェスト!
  • 「新しい書評のあり方」を探すALL REVIEWSのファンクラブ

初出メディア

毎日新聞

毎日新聞 2023年12月16日

毎日新聞のニュース・情報サイト。事件や話題、経済や政治のニュース、スポーツや芸能、映画などのエンターテインメントの最新ニュースを掲載しています。

関連記事
ページトップへ