書評

『あなたが愛した記憶』(集英社)

  • 2017/07/01
あなたが愛した記憶 / 誉田 哲也
あなたが愛した記憶
  • 著者:誉田 哲也
  • 出版社:集英社
  • 装丁:単行本(336ページ)
  • 発売日:2012-06-05
  • ISBN-10:4087714527
  • ISBN-13:978-4087714524
内容紹介:
拉致監禁。両手親指切断。暴行、そして扼殺。あまりに残虐な連続OL殺人事件が世間を賑わせていたとき、ひとりの女子高生が俺の前に現れた。「私、たぶん犯人知ってる」。そうだとしたら何?私をどうするの?私を殺す?あなたに私を殺せる?ノンストップ恋愛ホラーサスペンス。

超常現象支える細部の現実感

この著者の作風は、まことに多彩である。警察小説もあり、スプラッターもあり、青春小説もありと、なんでもござれの才筆の持ち主だ。評者は、この作家の警察小説を評価する一人だが、本書には別の得意わざが仕込まれ、緊密な作品になっている。

乳児を殺害、みずから110番通報して逮捕され、裁判が進行中の曽根崎という男を、弁護士が訪ねるシーンから、物語が始まる。冒頭の数章で、異常犯罪に関わる正体不明の男や、事件を追う複数の刑事、あるいは独特の雰囲気を持つ女子高生・村川民代などが順次紹介され、ストーリーの行く手が示される。

曽根崎は興信所の所長で、そこへ民代が人探しを依頼しに、やって来る。しかも、民代はのっけから、曽根崎の娘だと主張する。このあたりから、俄然(がぜん)物語が動き始める。曽根崎は民代に、別れた恋人と同じ嗜好(しこう)や癖を見いだし、ほんとうに自分の娘かもしれない、と思い始める。そこに秘められた謎が、全体を貫く不気味な通奏低音の、微妙な伏線になっている。

本書は、むずかしくいえば遺伝医学的な現象、簡単に言ってしまえば、オカルト的現象をテーマにするものだが、その種明かしは控えておく。そうした、超常現象以外のディテールが、現実感豊かに書き込まれているため、なんの抵抗もなく読める。多視点で描かれているものの、基本的には曽根崎を中核に据えた、私立探偵小説といってよかろう。キャラクターの一人ひとりが、行間から立ち上がる存在感を持ち、この小説を支える骨格をなす。ことに、曽根崎の事務所の下にあるスナックの店主、吾郎と美冴(みさえ)の兄妹がいい。曽根崎を慕う美冴には、ある意味で暗さに満ちたこの小説に、救いの一灯を添えるいじらしさがある。

プロローグから、途中である程度結末が予測できるのは惜しいが、読後に独特の余韻を残す佳作である。
あなたが愛した記憶 / 誉田 哲也
あなたが愛した記憶
  • 著者:誉田 哲也
  • 出版社:集英社
  • 装丁:単行本(336ページ)
  • 発売日:2012-06-05
  • ISBN-10:4087714527
  • ISBN-13:978-4087714524
内容紹介:
拉致監禁。両手親指切断。暴行、そして扼殺。あまりに残虐な連続OL殺人事件が世間を賑わせていたとき、ひとりの女子高生が俺の前に現れた。「私、たぶん犯人知ってる」。そうだとしたら何?私をどうするの?私を殺す?あなたに私を殺せる?ノンストップ恋愛ホラーサスペンス。

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初出メディア

朝日新聞

朝日新聞 2012年7月29日

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