書評

『頭がいい人、悪い人の話し方』(PHP研究所)

  • 2017/09/05
頭がいい人、悪い人の話し方  / 樋口 裕一
頭がいい人、悪い人の話し方
  • 著者:樋口 裕一
  • 出版社:PHP研究所
  • 装丁:新書(219ページ)
  • 発売日:2004-07-02
  • ISBN-10:4569635458
  • ISBN-13:978-4569635453
内容紹介:
何気ない会話に、その人の知性が現れる。難しい議論をしたわけではない、他愛のない世間話をしただけなのに…。社会に出れば話し方ひとつで、仕事ができるかどうか判断されてしまう。本書では、… もっと読む
何気ない会話に、その人の知性が現れる。難しい議論をしたわけではない、他愛のない世間話をしただけなのに…。社会に出れば話し方ひとつで、仕事ができるかどうか判断されてしまう。本書では、巷にあふれる愚かな話し方の実例をあげ、その傾向と対策を練る。「知ったかぶり」「矛盾だらけ」「繰り返しが多い」「具体例がない」「説教癖」など、思わず身近なあの人の顔が浮かぶ。そして、あなた自身も「バカに見える話し方」をしているのだ!文章指導のプロが「書くこと」と「話すこと」の共通項を見つけ、痛快に綴る。
トヨザキ的評価軸:
「金の斧(親を質に入れても買って読め)」
「銀の斧(図書館で借りられたら読めば―)」
◎「鉄の斧(ブックオフで100円で売っていても読むべからず)」

ぶっちゃけ一文の得にもならねえ駄本なのよ、これが

通信添削による作文や小論文の専門塾を主宰するオッサンが書いた『頭がいい人、悪い人の話し方』が、百六十五万部のミリオンセラーに。今や”会話術の第一人者”としてテレビや週刊誌にひっぱりだこなんですの。でも、ぶっちゃけ一文の得にもならねえ駄本なのよ、これが。四章四十項目からなる目次だけでベストセラーのだめぇな特徴が幾つか判明いたしますんで。

その一、目次を見ると内容がわかってしまう。そのくらいわかりやすくしないと、バカまで手に取らないってことだすわね。だすわよ。その二、矛盾する項目がある。たとえば、「ケチばかりつける」と「人の考えをすぐにうのみにする」の二項目において、何でも批判する人を〈あら探ししかできない〉と否定しておきながら、他人の発言を素直にうのみにする人のことも〈コントロールしやすい〉として小バカにしているんですの。その三、同じことを繰り返す。「他人の権威を笠に着る」と「自分を権威づけようとする」、「感情に振り回される」と「感情の起伏が激しい」などなど。こういう実用書の書き手や編集者って、読者のことをハナからバカにしてて、同じことを噛んで含めて、咀囎しすぎたペースト状にでもしてやらないと理解できないと思ってるんだすわね。だすわよ。

で、中味を見るとベストセラーの鉄則がさらに露わに。それは牽強付会。この本、基本的に「Aのような人はBという性質があるので、Cみたいな話し方をして嫌われる」式の展開になってるんですけど、丁寧に読めばAとBとCがイコールで結ばれる蓋然性などほとんどないケースが多々見受けられるんでございます。で、単純な類型化による決めつけが激しい。〈この種の人は〉〈その種の人によると〉のオンパレード。ためしに任意のページを開いてかぞえてみたところ、見開きで九回、およそ四行に一回「この種」「その種」を連発しておりますの。

そういった事例の後につけてる「対策」がまた笑止千万もの。どんなに聞くに耐えない話し方をする人がいても、それが上司だった場合〈配置転換を希望する〉〈聞き流す〉〈転職を考える〉〈あまり気にしない〉〈放っておこう〉――って、何の対策にもなってねーよ! この本をミリオンセラーに押し上げた百六十五万人のバカに対しては、著者の言葉を借りてこう言っておきましょう。〈できれば、おもしろおかしく書かれたスポーツ新聞や週刊誌のレベルではなく、もっと高度なレベルの本を読むことが好ましい〉。書店や図書館には、いくらでも読まれるべき本が埋もれておりましてよ。

【この書評が収録されている書籍】
正直書評。 / 豊崎 由美
正直書評。
  • 著者:豊崎 由美
  • 出版社:学習研究社
  • 装丁:単行本(228ページ)
  • 発売日:2008-10-00
  • ISBN-10:4054038727
  • ISBN-13:978-4054038721
内容紹介:
親を質に入れても買って読め!図書館で借りられたら読めばー?ブックオフで100円で売っていても読むべからず?!ベストセラーや名作、人気作家の話題作に、金、銀、鉄、3本の斧が振り下ろされる。

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。

頭がいい人、悪い人の話し方  / 樋口 裕一
頭がいい人、悪い人の話し方
  • 著者:樋口 裕一
  • 出版社:PHP研究所
  • 装丁:新書(219ページ)
  • 発売日:2004-07-02
  • ISBN-10:4569635458
  • ISBN-13:978-4569635453
内容紹介:
何気ない会話に、その人の知性が現れる。難しい議論をしたわけではない、他愛のない世間話をしただけなのに…。社会に出れば話し方ひとつで、仕事ができるかどうか判断されてしまう。本書では、… もっと読む
何気ない会話に、その人の知性が現れる。難しい議論をしたわけではない、他愛のない世間話をしただけなのに…。社会に出れば話し方ひとつで、仕事ができるかどうか判断されてしまう。本書では、巷にあふれる愚かな話し方の実例をあげ、その傾向と対策を練る。「知ったかぶり」「矛盾だらけ」「繰り返しが多い」「具体例がない」「説教癖」など、思わず身近なあの人の顔が浮かぶ。そして、あなた自身も「バカに見える話し方」をしているのだ!文章指導のプロが「書くこと」と「話すこと」の共通項を見つけ、痛快に綴る。

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初出メディア

TV Bros.

TV Bros. 2005年4月30日

多彩な連載陣のコラムが人気のポップカルチャーTV情報誌。豊﨑由美氏の書評コーナー「帝王切開金の斧」が好評連載中。

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