書評

『世界認識の臨界へ』(深夜叢書社)

  • 2017/09/04
世界認識の臨界へ / 吉本 隆明
世界認識の臨界へ
  • 著者:吉本 隆明
  • 出版社:深夜叢書社
  • 装丁:単行本(318ページ)
  • 発売日:2003-04-01
  • ISBN-10:4880320005
  • ISBN-13:978-4880320007
湾岸戦争が始まった。どう思うか。臓器移植が緊急課題となっている。どう考えるか。高度資本主義がいよいよ加速している。われわれはこれにどう向きあえばいいのか。そうたずねられて、留保なしに、八方への目くばりなしに、しかも数年後の検証にも堪えられる理論的根拠を示しながら、即答し、それを公開できる物書きが、いま、何人いるだろう。吉本隆明ひとりだけ、と言い切ってよさそうである。

逆にいえば、この人には、コメ問題から性犯罪まで、安楽死問題からクローン人間の可能性まで、じかに会って、徹底的に聞きただしてみたい、と、おそらく誰しもが考える。そして吉本氏自身、筋の通った質問なら、いつでも、どこでも、正面から答える用意ができている。新聞への寄稿であれ、対談であれ、インタビューであれ、そうした発言が、すでに膨大な量にのぼっている。講演集、対談集、インタビュー集がこんなに多い思想家も少ないにちがいない。

この本は、一九八五年から九二年にわたるインタビュー七本を集めたものである。つねに「めちゃくちゃな変貌」を示す東京という都市をどう見るか。娘さんの吉本ばななについてはどうか。また、ブランショについて、バタイユについて、エコロジーについて、産業構造の高次化について、死後の世界についてどう考えるか。言えることはすべて言い、何がいま、解明不明なものかも、言えるかぎり言う。即答というのはむずかしい。五分、考えてからなら言えても、即答で、公開され全責任を負わされる発言をするのは至難だ。それを断行してきた吉本氏の勇気に、あらためて感嘆する。

吉本氏の言葉は、マスコミにはめったに載らない。しかし、深いところで、戦後の日本人の、ものの考え方の基本に影響を与えつづけてきた。自由に生き、自由に考えて、取り返しのつかない歪みから戦後日本を救ってきた人だと思う。
世界認識の臨界へ / 吉本 隆明
世界認識の臨界へ
  • 著者:吉本 隆明
  • 出版社:深夜叢書社
  • 装丁:単行本(318ページ)
  • 発売日:2003-04-01
  • ISBN-10:4880320005
  • ISBN-13:978-4880320007

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