使い込んだステンレスの鍋、六角形のまな板、塗料のはげたボウル……。実用器具が、こんなにも味わいがあるのか、と思わず見惚れる。小物の収納や生ゴミの捨て方といったアイデアも満載。自分も実践しよう、と思わず小さな決意。
紹介されるのは料理研究家から主婦まで21人の「料理上手」の台所。丁寧な暮らし方を提唱する隔月刊誌「クウネル」から生まれた書籍だ。今年3月発売の25号で「料理上手の台所」特集を組んだところ、好評で雑誌ながら重版に。それを受けて取材と撮影を追加、9月に刊行するとひと月で3回増刷された。
「ずうずうしくも、引き出しの中まで見せてもらいました」と、お勝手探検隊隊員・担当編集者の戸田史さん。取材申し込みの段階では「特別なことはしていない」と言う方でも、台所や調理過程を見学すると、ご本人が当然と思っている振る舞いの中に「そんな工夫が!」と、必ず発見があった。「見た目の完成度だけでない、日常に根付いたアイデアを探しました。器具をぴかぴかに磨く方から、多少の焦げ目は残したいという方まで、考え方もさまざまでした」
読者層は圧倒的に女性で、30、40代を中心に20〜50代と幅広い。読者からは「古さや狭さに関係なく、工夫次第で素敵(すてき)な台所を作ることができると知った」「何度も、何度も読み返しています」と、熱い声が。
撮影を主に担当した写真家の長野陽一さんは「単に台所を撮るのでなく、使う人の気配も写しこむ」ことにこだわったとか。味わいのある写真、軟らかな文章。単なる実用書とは違い、本書には、絵本を眺めるような楽しみもある。