前書き

『暮らしとこころに風を入れる「家開き」術:人がつながる 人が集まる』(原書房)

  • 2020/04/15
暮らしとこころに風を入れる「家開き」術:人がつながる 人が集まる / 池上 裕子
暮らしとこころに風を入れる「家開き」術:人がつながる 人が集まる
  • 著者:池上 裕子
  • 出版社:原書房
  • 装丁:単行本(ソフトカバー)(196ページ)
  • 発売日:2020-03-28
  • ISBN-10:4562057335
  • ISBN-13:978-4562057337
内容紹介:
人生百年時代、居心地のいいコミュニティは自分でつくろう! 自宅に人を受け入れ、無理なくほどよい交流を築く「家開き(いえびらき)」の極意をベテラン女性建築家が指南。好きなことで人とつながる豊かな暮らしのつくり方。
日本は世界一の長寿国。つまり人生が長いということ。
ではその長い人生を、あなたはどう過ごしたいと思っていますか?
子育てはいつか終わるもの。仕事もいつか多くの人が定年や引退を迎えます。
誰もがいつまでも元気に、生き生きと暮らしたいと願っています。あれもやりたい、これもやりたいと思う人もいれば、いつまでも生きがいを持って暮らしていく具体的なイメージがなかなか持てない人もいるかもしれません。会社員の男性ならば、そもそも地元で知り合いがほとんどいないことを不安に思う人も少なくないでしょう。
「家開き(いえびらき)」という言葉をご存知でしょうか。
「家開き」は、自宅に人を受け入れ、人とのほどよい関係を築くことによって、生きがいや楽しみを感じられる豊かな暮らしを目指します。趣味、遊び、特技……好きなことで人と交流し、人生をいつまでも楽しく暮らすためにはどうすればよいのでしょうか。
暮らしを知り尽くしたベテラン女性建築家が「楽しい自宅ライフ」を指南する新刊、『暮らしとこころに風を入れる「家開き」術』の1章を抜粋公開します。

人が来る家は楽しい家

今から30年後、あなたはいくつになっているでしょうか?
報道によれば、2019年の日本人の100歳以上の方は7万人を突破、今から30年後の2050年には50万人を超えると予測する専門家もいます。
長寿化の先頭を走っている日本では、今までに経験したことのない長寿社会がやってくるのです。どこを見ても高齢者に会うという感じなのでしょうね。
これからは「家」で過ごす時間がますます長くなります。計算上は、定年後の時間は働いていた時間と同じくらい「家」で過ごすことになります。
ひとりの人が20歳から60歳まで働いたとします。個人差はありますが、日本人は一年間で約2000時間働くそうです。そうすると60歳の定年までに働く時間は、2000時間×40年=8万時間になります。
一方、定年後の時間はというと、いま日本人の男性の平均寿命は81歳、女性は87歳を超えています。一日24時間のうち、睡眠や食事などの時間を引いた時間を11時間とします。11時間×365日×20年としても8万時間以上です。女性は約10万4000時間以上になります。
つまり、会社で働いていた時間以上が、定年後の人生には残っているのです。その時間をどう過ごすかの準備は必要であり、個人に任されています。
家で過ごす時間の多さを考えたときに、その過ごし方、つまり暮らし方は残りの人生そのものになるのです。


「有形資産」と「無形資産」


これからの家の価値は、不動産=「有形資産」としての価値だけでなく、人とのほどよい関係を築くことによって幸福感や充実感といった人生の充足=「無形資産」を感じられる暮らし方がいかにできるかが、より大切になってきます。
人は「資産」というと、なぜか有形なものだけを考えることが多いようです。たとえば不動産とか、銀行の預金とか、客観的価値をお金に表しやすいものをすぐに考えるようです。
しかし、客観的価値が表しにくい「無形資産」を持つことは本当に大切です。
健康な身体や精神、高度な知識やスキル、信頼できる仲間や家族の存在……こういうお金には換算できない資産がとても大切になるのです。良い人生に対する考え方は人によって違うかもしれませんが、私は、普通の人には両方の資産がバランスよく必要だと思っています。
「資産」とは、ある程度の期間存続するものですが、その価値はずっと同じように存続していくものではありません。「有形資産の価値」は上がることもあれば下がることもあります。だからメンテナンスや投資をして価値が下がらないようにしますよね。
では「無形資産の価値」はどうでしょうか。
残念ながら、これも怠っていれば、価値がなくなることがあります。このことに気づかない人がとても多いのです。
友人に連絡をとらなかったり、家族を大切にしなかったり、知識を増やさず活用しなかったり、健康を大切に考えない生活をしていたりすれば、それは「無形資産」を徐々に失っていることになるのです。
「有形資産」は永遠ではありません。そして、「無形資産」も永遠ではありません。「有形資産」を活用しながら「無形資産」を維持管理させることが大切になるのです。
健康で安心した暮らしをするためには、住まいという器の「有形資産」だけをつくるのではなく「無形資産」もしっかり考えた住まいづくりが必要なのです。
私は本書で「家開き」という暮らし方を提案します。
まさに、「有形資産」を活用しながら「無形資産」を維持管理する方法です。


「家開き」とは何か


「家開き」とは、自宅を活用して人とつながる暮らしをすることです。
自宅に人を受け入れることで、他者と交流し、何歳になっても自宅で楽しく生きることができる暮らし方です。
自分の家で、人とのほどよい関係を築くことによって、生きがいや楽しみを感じられる豊かな暮らしを目指します。
自宅でコミュニティをつくるだけでなく、プチ開業をしたり、シッターやヘルパーを受け入れたり、友達や親族を招くのも、「家開き」のひとつの形です。
今後、人生100年時代が到来すると、「家」で過ごす時間がますます長くなり、「家でどのように過ごすか」ということが、多くの人にとって課題になってきます。
私のまわりには、すでに人とのほどよい関係を築いて、生きがいや楽しみを感じながら豊かな暮らしを実現している人がいます。
共通の趣味をもつ人と世代を越えて一緒に楽しむ。
定年後に得意なことを活かして、自宅で教室や施術、コンサルティングなどの開業をする。
空き部屋を活用して民泊や下宿にして新たな交流を作る。
介護を家族だけで抱え込まず、シッターやヘルパーなどの外部の力を上手に借りる。
子育てしながら、自宅で教室やサロンを自分のペースではじめる。
このように、自分の家に人を受け入れ、他者との交流を図る暮らし方を、私は「家開き」と名付けました。
家を、食事をしたり寝るだけの場所としてとらえている人が多いのですが、閉じられたプライベートな場所だけにしておくのはもったいないことです。家を交流や仕事の場としてもっと活用することで、リスクを抑えつつ自分の興味のあることにチャレンジし、自分の可能性を広げていくことができます。
そして「家開き」をすることが、高齢になったときに地域から孤立せず、困ったときに近所の人と助け合える関係を築いておく、将来の備えにもなるのです。
高齢になって急に地域とのつながりをつくることはとてもむずかしいことです。家開きは年齢には関係はありませんが、歳を重ねてから急に家開きをしようと思ってもむずかしいのが現状です。子供の独立時や定年退職をきっかけに家開きを始める方が多いです。50代の頃からこそ、少しずつ心を開いて地域につながりを築いてほしいと思います。
実際に家開きを実践している人たちに会ってみると、コミュニケーション能力が特別優れているわけでもなければ、すごいスキルを持っているというわけでもありません。自分の出来る範囲から小さく始め、少しずつ人の輪やできることを広げていく、そんな人ばかりです。まずは、沢山の人を家に呼ばなくても大丈夫。ひとりでもいいから友人を自宅に招くところから始めてみませんか?


家開きは「心を開く」こと


とはいえ、「家開き」の本当の目的は、家でサロンや教室を開くことではありません。心を開くことです。将来の安心のために人とつながる人間関係への投資のようなものなのです。
子育てや介護で行き詰まったとき、子供がひきこもりになったとき、ひとり暮らしになり外出が困難になったとき、あなたは「私はこんなことで困っています。助けてほしい!」と外部の人に言えますか? 気がついた今この瞬間から、自分にできる範囲でかまわないので、自分のために「家開き」をはじめることが、将来の安心でしあわせな暮らしにつながります。
自分の家を自分にとって一番居心地が良いところにしよう――そう思い、人を受け入れる心を開き、慣れていくことなのです。
2章からは、私が建築士として働くなかから知ることができた、家開きをした方たちの具体例を物語ふうにつづります。性別も年代もさまざまです。家開きは、ある特定の層の人たちだけがするものでありません。それぞれの家の、それぞれの家開きの物語があります。そんなことを感じとっていただければうれしいです。

[書き手]池上裕子(いけのうえ・ゆうこ)一級建築士事務所アキ設計代表。子育て中の1987年に事務所を一人で創業。女性の生活者としての視点を大切にし、個人宅のコンサルティングを得意とする。単身高齢者や障害で外出できなくなった主婦の家の設計などの経験をふまえ、自宅にいながら人と交流が持てる暮らし方、「家開き」を提唱。幅広い世代に提案している。自らも自宅の一部をオフィスや交流サロンとして開放する。
暮らしとこころに風を入れる「家開き」術:人がつながる 人が集まる / 池上 裕子
暮らしとこころに風を入れる「家開き」術:人がつながる 人が集まる
  • 著者:池上 裕子
  • 出版社:原書房
  • 装丁:単行本(ソフトカバー)(196ページ)
  • 発売日:2020-03-28
  • ISBN-10:4562057335
  • ISBN-13:978-4562057337
内容紹介:
人生百年時代、居心地のいいコミュニティは自分でつくろう! 自宅に人を受け入れ、無理なくほどよい交流を築く「家開き(いえびらき)」の極意をベテラン女性建築家が指南。好きなことで人とつながる豊かな暮らしのつくり方。

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