書評

『マンションは大丈夫か―住居として資産として』(文藝春秋)

  • 2018/06/29
マンションは大丈夫か―住居として資産として / 小菊 豊久
マンションは大丈夫か―住居として資産として
  • 著者:小菊 豊久
  • 出版社:文藝春秋
  • 装丁:新書(230ページ)
  • ISBN:4166601199
内容紹介:
都市に暮らす多くの日本人が生活の基盤とし、「2DK」「3DK」なる珍妙な和製英語で呼ばれる類型的な間取りとして定着したマンション。大正デモクラシーに源流をもつこの集住形式が日本に登場しておよそ八十年。その矛盾は、はからずもバブルの崩壊と阪神大震災によって露呈した。今こそ、「大邸宅」という本来の意味にふさわしいマンション像を考える時ではないのか。これからもマンションに住み、マンションと暮らしてゆくために-。

私のマンション、だいじょうぶ?

テレビをつければ、どこぞのマンションのコンクリートが落下したとか、ベランダにひびが入り住人と販売会社との間で係争中とかといったニュースが、しょっちゅう流れてくる。中古の2LDKを、すでに購入してしまった私は、耳のみならず背筋までピンと立ってしまう。

買う前は、

「この私にはたしてローンが組めるのか」

が、最大の関心事だったが、今は、

「いつまでもつのか」

の方にポイントが移っている。ローンはめでたく完済しました、建物はボロボロになりました、では困るのだ。

住宅問題の専門家、小菊豊久著『マンションは大丈夫か』(文春新書)は、建築物としての面プラス、社会、経済的な背景もふまえ、日本のマンションが現在の形になるまでの歴史を振り返り、将来あるべき像を探る。こういう本は、買う前に読むべきだったかも知れないが、私の場合、現地に行ったら、

「これを逃したら、もう二度と同じような物件にはめぐり合えないかも知れない」

といった興奮状態になり、即決した。スラブ厚だL値だといった、チェックポイントとされることは、断片的な知識として頭に入ってはいたが、訊ねる暇などありはしなかった。今考えても、冷静な判断とは言いがたい。

なので、どこか一行でもいい「あの買い物は間違いではなかった」と思えるところに出会えることを、ワラにもすがる思いで切望しつつ読んだ。幸い、もう買ってしまった人のために、長もちさせる方法や、管理組合のありかたといった項目もあった。

ズバリ、マンションはだいじょうぶか? 答は本書に譲るとして、気になる耐用年数にだけふれておこう。

税務上の法定耐用年数は六十年。ただし、これは、あまりアテにはならないそうな。補修工事に要する費用対効果の問題や、実態調査からすると、「現時点では四十~五十年がひとつの節目という見方ができる」という。わが家は、買ったときですでに築十四年。

「そうすると、私が七十歳前後のときに、建て替えを迎えるわけか」

と、思わず計算してしまった。このぶんだと、人間の寿命より、マンションのそれの方が先に尽きてしまいそうだ。

それも、コンクリートがまともに打たれていての話。そもそも、なぜ鉄筋とコンクリートがコンビを組むかの理由のひとつは、鉄筋はサビやすく、コンクリートはアルカリ性で、酸化すなわちサビを防ぐから。そのコンクリートに、塩分をたっぷり含んだ未洗浄の海砂を、大量に入れられてご覧なさい。あるいは、全然平らにならされておらず、ところにより鉄筋が露出していたとしたら……。本書に出てくる事例である。そうした手抜きは、モデルルームをいくら眺めてもわからないところが、怖い。

実は私は購入後、父親との同居の可能性が出てきて、一時期3LDKへの買い替えを考えたことがある。LDKの他、父に一室、私の寝室に一室、仕事場として一室のつもりで。

チラシで見ると、3LDKのほとんどが「田の字プラン」といわれるもの。北側のバルコニーが共用廊下で、玄関を入ると二つの洋室が左右にあって、奥というか南側にLDKと和室が並ぶ。

これだと、LDKと和室との仕切りが、襖一枚でしかないので、台所仕事の音が筒抜けだ。父が就寝中、夜食を作り出すのはおろか、お茶をいれるのもはばかられる。LDKと和室とは、常に同じ生活時間で暮らさねばならず、実際には、2LDKぶんの用しかなさないのだ。また父は、テレビの落語や歌舞伎を大ボリュームで視聴するのを楽しみとしているが、部屋の壁やドアの防音性が低いと、私は仕事にならない。

そのあたりは、モデルルームに足を運んで販売員にも訊ねたが、要領を得なかった。モデルルームには、観葉植物なんぞ置かなくていいから、そういうことに答える人を配置してほしい。

今は住人の間の音のトラブルが多いから、各戸の仕切りの壁や天井の構造には、販売員も詳しいが、ひとつの住戸内での部屋の独立性には、関心が払われていないらしいこともわかった。「田の字プラン」はファミリータイプの典型なのに、そんなことで皆さん夫婦生活はどうしているのか、疑問に思う。

「何で、3LDKというと、リビングに和室がくっついているわけ。万人にとって使いいいとはとても思えない」

報告のついでに、こぼすと、父親は、

「それは、襖をはずしてひと部屋にすれば、葬式ができるからだ」

と断言した。

「だって、あの共用廊下の狭さじゃ、お棺が曲がれないじゃない」

と異を唱えようとしたが、話があまりに具体的になるので、やめた。この「田の字プラン」が基本になったわけも、本書に説明されている。

将来の像としては、著者はスケルトン・インフィルを思い描いているようだ。スケルトンは躯体、ひらたくいえば骨組みで、購入者はそれを買い、内装や間取りなどのインフィルは、自分でそれぞれの会社に注文する。

なるほど、それだと「リフォームのとき床をはがしてみて、コンクリートがでこぼこだと知った」なんてことにはなるまい。ただし、買ってからの部屋づくりが今よりもっとたいへんになることは想像がつき、ただでさえ部屋づくりにいかに悪戦苦闘したかを綴った著書(『マンション買って部屋づくり』文藝春秋)のある私としては、やや、ひるむ。

しかし、住まいは、住む側がそこまでの主導権をとってはじめて、「自分のもの」となるのかも知れない。スーパーでの十円百円の買い物は、真剣に検討するくせに、保険や家といった何百万何千万円単位のものとなると、業者任せにしてしまいがちな私たち。が、「ほんとうは逆であるべきでは」と考えさせられたのだった。

【この書評が収録されている書籍】
本棚からボタ餅  / 岸本 葉子
本棚からボタ餅
  • 著者:岸本 葉子
  • 出版社:中央公論新社
  • 装丁:文庫(253ページ)
  • 発売日:2004-01-01
  • ISBN:4122043220
内容紹介:
本の作者が意図していない所に「へーえ」、テーマにピンとこなくたって「なるほど」と感じたことはありませんか?思いつきで読んでみても得るモノはあるはず。恋に悩む時、仕事に行き詰まった時…偶々、解決のヒントを発見できたら大きなご褒美です。寝転ろんで頁をめくりながら「おまけがついてこないかな」と自然体?で構えてみませんか。

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。

マンションは大丈夫か―住居として資産として / 小菊 豊久
マンションは大丈夫か―住居として資産として
  • 著者:小菊 豊久
  • 出版社:文藝春秋
  • 装丁:新書(230ページ)
  • ISBN:4166601199
内容紹介:
都市に暮らす多くの日本人が生活の基盤とし、「2DK」「3DK」なる珍妙な和製英語で呼ばれる類型的な間取りとして定着したマンション。大正デモクラシーに源流をもつこの集住形式が日本に登場しておよそ八十年。その矛盾は、はからずもバブルの崩壊と阪神大震災によって露呈した。今こそ、「大邸宅」という本来の意味にふさわしいマンション像を考える時ではないのか。これからもマンションに住み、マンションと暮らしてゆくために-。

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