書評

『あなたのマンションが廃墟になる日――建て替えにひそむ危険な落とし穴』(草思社)

  • 2017/07/18
あなたのマンションが廃墟になる日――建て替えにひそむ危険な落とし穴 / 山岡 淳一郎
あなたのマンションが廃墟になる日――建て替えにひそむ危険な落とし穴
  • 著者:山岡 淳一郎
  • 出版社:草思社
  • 装丁:単行本(286ページ)
  • 発売日:2004-03-26
  • ISBN-10:4794212992
  • ISBN-13:978-4794212993
内容紹介:
なぜか日本のマンションは「30年」という欧米の3分の1にも満たない短い期間で壊され、新築されている。現在、築後30年を過ぎて「建て替え」の問題に直面している分譲マンションは27万戸。それ… もっと読む
なぜか日本のマンションは「30年」という欧米の3分の1にも満たない短い期間で壊され、新築されている。現在、築後30年を過ぎて「建て替え」の問題に直面している分譲マンションは27万戸。それが10年後には100万戸にまで膨れあがるという。これらのマンションの「建て替え」を推進させるため、大手不動産会社や建設会社の強い圧力を受けた国が成立させた「マンション建て替え円滑化法」が、02年12月から施行されている。老朽化したマンションはどんどん壊して建て替える。際限なきスクラップ&ビルドの大波が日本を覆いはじめた。だが当事者の住民たちは出口のない難題に苦しめられていた…。

建て替え誘導施策からの脱皮を説く

高度成長期以降に建てられた多くのコンクリート構造物の寿命が、極端に短くなっている。橋梁(きょうりょう)などのひび割れ事故が相次いでいるが、人ごとでないのが集合住宅。団地やマンションの平均リサイクル年数は「築後三十年」、現在二十七万戸がその圏内にあり、七年後には百万戸に達するという。それだけの住居が漏水や雨漏り、コンクリの剥落(はくらく)や鉄筋の腐食などの老朽化に苛(さいな)まれるのだ。木造建築の法隆寺が健在であることを思えば、作為を感じさせる異常さである。

対策の選択肢は建て替えか改修だが、日本では前者が推進されてきた。建て替えて高層化し、戸数増加分を再建費に充てれば、無償で広く新しい部屋をもらえたからだ。だがそれには、右肩上がりの土地神話が前提となる。地価が下がり新規分が売れなければ、ローンを完済したはずの「終(つい)の棲家(すみか)」に、再建や仮住まい、引っ越しの追加費用が数百万円もかかる。対策が住民間で合意されないと、建て替えも改修もままならぬまま、住まいは廃墟(はいきょ)と化していく。稲毛ニュータウンや震災後の神戸のエピソードには、息が詰まる。

著者は問題の本質が日本のスクラップ・アンド・ビルド体質にあると喝破し、土地を投機により転がす政財官の企(たくら)みを暴き出す。ディベロッパーにとって建て替えは金の成る木。法務省は、建て直しが促進されるよう区分所有法を改訂した。容積率の規制緩和と高層化は景気対策である。構造改革は政財官の癒着を切り離すと謳(うた)われたが、むしろ建て替え体質は強化されている。震災の被災者にまで建て替えの好機と煽(あお)るのは、浅ましいとしか言いようがあるまい。

対照的に欧米では上ものの改修が当たり前で、土地は共有物とみなされ、長期の定期借地権制度も定着している。日本でもそうした流れを受け、マンション管理の京都方式や費用が建て替えの五〜六割ですむリファイン建築が現れた。そうした事例がせめてもの救いだ。

住居を土地投機にさらすと、「暮らし」も漂流し始める。日本社会の虚(むな)しさを描く快作ノンフィクションだ。
あなたのマンションが廃墟になる日――建て替えにひそむ危険な落とし穴 / 山岡 淳一郎
あなたのマンションが廃墟になる日――建て替えにひそむ危険な落とし穴
  • 著者:山岡 淳一郎
  • 出版社:草思社
  • 装丁:単行本(286ページ)
  • 発売日:2004-03-26
  • ISBN-10:4794212992
  • ISBN-13:978-4794212993
内容紹介:
なぜか日本のマンションは「30年」という欧米の3分の1にも満たない短い期間で壊され、新築されている。現在、築後30年を過ぎて「建て替え」の問題に直面している分譲マンションは27万戸。それ… もっと読む
なぜか日本のマンションは「30年」という欧米の3分の1にも満たない短い期間で壊され、新築されている。現在、築後30年を過ぎて「建て替え」の問題に直面している分譲マンションは27万戸。それが10年後には100万戸にまで膨れあがるという。これらのマンションの「建て替え」を推進させるため、大手不動産会社や建設会社の強い圧力を受けた国が成立させた「マンション建て替え円滑化法」が、02年12月から施行されている。老朽化したマンションはどんどん壊して建て替える。際限なきスクラップ&ビルドの大波が日本を覆いはじめた。だが当事者の住民たちは出口のない難題に苦しめられていた…。

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初出メディア

朝日新聞

朝日新聞 2004年5月30日

朝日新聞デジタルは朝日新聞のニュースサイトです。政治、経済、社会、国際、スポーツ、カルチャー、サイエンスなどの速報ニュースに加え、教育、医療、環境、ファッション、車などの話題や写真も。2012年にアサヒ・コムからブランド名を変更しました。

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