書評

『つんつくせんせいとつんくまえんのくま』(フレーベル館)

  • 2017/09/26
つんつくせんせいとつんくまえんのくま / たかどの ほうこ
つんつくせんせいとつんくまえんのくま
  • 著者:たかどの ほうこ
  • 出版社:フレーベル館
  • 装丁:大型本(32ページ)
  • 発売日:2002-01-01
  • ISBN-10:4577023628
  • ISBN-13:978-4577023624
内容紹介:
森の中で、ばったりくまに会うのは、とてもこわいことです。でも、私たちが楽しい遠足をするのなら、くまたちだって、楽しい遠足をして悪いわけはありません。まずいのは、遠足の日が、かさなることなのです。さあ、山の家にでかけていった、つんつくえんのみんなに、どんなことが起こるのでしょう。

つんつくえんとつくしまえん

  昼寝する吾子の横顔いっぽんの植物の蔓(つる)のごとくたどれり

「おひるねのとも」に適している絵本というのがある。読んでもらっているうちに、すうっと眠りに誘われるためには、あまりハラハラどきどきのお話でないほうがいい。適度におもしろく、適度にのんびりしていて、適度にややこしい……。息子にとっては『つんつくせんせいとつんくまえんのくま』が、まさにそういう絵本だ。

山の家に行くことになったつんつくえんのみんなと、山の家に行くことになったつんくまえんのこぐまたち。お互いの山の家を取り違えたようなのだけれど、なんだか丸くおさまってしまう。

「つんつくえんのみんなが……つんくまえんのつんくませんせいと……」

と、つんつくつんくま読んでいるうちに、息子の目は、だんだんとろーりとしてくる。ちょうどお昼寝の場面が、途中にあるのもいい。

ところで、この「つんつくえん」からの連想なのか、あるときから息子は「つくしまえん」というナゾの園名を口にするようになった。

大好きなカリンジュースを飲みながら「かんろ、かんろ」などとつぶやくので、「あら、そんなむずかしい言葉、どこで覚えたの?」と聞くと、「つくしまえんだよ」。

玄関の靴(くつ)を熱心にそろえているので「えらいねえ、ばあばに教えてもらったの?」と聞くと、これまた「ううん、つくしまえん」。

おみせやさんごっこをしていて、昨日までは「いらっさいませ~」だけだったのに、急に口上を述べるようになったときも、近所のスーパーではなく「つくしまえん」で聞いたと言う。

「いらっさいませ、いらっさいませ。おいしいおべんとうです、いかがでしょうか。いろいろくふうしてみました。これはコンニャクのおともだちのメンニャクですよ~」

本を読むのもテレビを見るのも買い物をするのも、ほとんど一緒にしている。子どもが新しい言葉に出会う場面には、たいてい立ち会っているつもりなのだが、はて、どういうことだろう? 週に一度通っているプリスクールかとも思ったが、どうもそうでもないらしい。

「ねえねえ、つくしまえんって、プリスクールのこと?」
「ちがうよ」
「どこにあるの?」
「ずーっと、ずーっと、とおいところ」
「おかあさんの、しってるところかな?」
「ううん、おかあさんは、いったことないの」

きっぱり答えるところを見ると、かなりはっきりしたイメージがあるようだ。

秋には三歳になる息子。いつのまにか、いろんな言葉を覚え、いろんなことがわかるようになっている。私の目には見えないところで成長しているなあと感じることも、しばしばだ。「つくしまえん」は本当にどこかにあるのかもしれない。

【この書評が収録されている書籍】
かーかん、はあい 子どもと本と私 / 俵万智
かーかん、はあい 子どもと本と私
  • 著者:俵万智
  • 出版社:朝日新聞出版
  • 装丁:文庫(224ページ)
  • 発売日:2012-05-08
  • ISBN-10:4022646667
  • ISBN-13:978-4022646668
内容紹介:
6歳になった今も、息子は絵本を持って母のもとへやってくる――。子育てをする歌人が、子どものために選び、自身も心を揺り動かされた絵本48冊を紹介したエッセイ。母親世代にも懐かしい不朽の名… もっと読む
6歳になった今も、息子は絵本を持って母のもとへやってくる――。子育てをする歌人が、子どものために選び、自身も心を揺り動かされた絵本48冊を紹介したエッセイ。母親世代にも懐かしい不朽の名作から、図鑑、ことば遊び、シュールなものまで、幅広く選んでいる。成長に応じた絵本探しの参考として、また母と子のあたたかな交流を描いた本として楽しい一冊。単行本全2巻を1冊にまとめて文庫化。

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つんつくせんせいとつんくまえんのくま / たかどの ほうこ
つんつくせんせいとつんくまえんのくま
  • 著者:たかどの ほうこ
  • 出版社:フレーベル館
  • 装丁:大型本(32ページ)
  • 発売日:2002-01-01
  • ISBN-10:4577023628
  • ISBN-13:978-4577023624
内容紹介:
森の中で、ばったりくまに会うのは、とてもこわいことです。でも、私たちが楽しい遠足をするのなら、くまたちだって、楽しい遠足をして悪いわけはありません。まずいのは、遠足の日が、かさなることなのです。さあ、山の家にでかけていった、つんつくえんのみんなに、どんなことが起こるのでしょう。

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初出メディア

朝日新聞

朝日新聞 2006年7月26日

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