不思議な気持ちを誘う一枚の写真がある。角が深く絡み合った2頭の大きなヘラジカの頭の骨だ。撮影者は、多くの野生動物の姿を写真に収めた星野道夫。友人だった著者は、ある日突然夢に現れたこの写真を絵本にしようと、アラスカに飛ぶ。
星野のキャプションからイメージを膨らませる。800キロものオスのヘラジカ2頭が、メスを巡る死闘を続けるうちに、角が絡まりはずれなくなる。夕暮れには2頭はぐったり、膝をつく。そこで一頭のオオカミが仲間を呼ぶ。ヘラジカに逆らう術はない。オオカミたちが食べ始めたところに現れたヒグマ。ヒグマが去った後戻ってきたオオカミが満足して去ると、コヨーテやアカギツネ、その後にはカナダカケスとワタリガラスが来る。雪の野原になる頃には、カンジキウサギが来て角を齧る。春が何度も来て角と頭の骨だけ。その陰にアメリカタヒバリが巣を作り、ひなが元気に育つ。大きな自然の中には、死ぬことと生きることとが関わり合って存在しているのだ。鳥の巣の研究・収集をしている作者ならではの絵と物語である。