一度始めてしまった戦争をやめることがどれほど大変か。ロシアのウクライナ侵攻の現状を見ての実感であり、本書の小さな実例から何かを学びたいと思う。
1914年7月に始まった第一次世界大戦で、フランス、ベルギーに攻めこむドイツ軍をイギリス軍が迎えうつ最前線でのことだ。12月24日の夜、鉄条網を挟む二つの塹壕(ざんごう)からクリスマスの歌が響き、いつしか一緒に歌っていたという。翌朝ドイツの塹壕から武器を持たず手を上げた兵士が歩き出し、それに応えてイギリス側の若い兵士が出て行った。二人の握手をきっかけに皆がメリークリスマスと握手をし、上着をまるめて作ったボールでサッカーが始まった。その後4年間も続いた戦争の中で、彼らは撃ち合いを避けたという。
敵と思っていた相手が音楽やスポーツを愛する同じ仲間であることに気づいて戦争をやめた人たちがいるのに、なぜそれが大きなうねりになって地球上から戦争をなくせないのか。世界中の人がつながり合う社会になった今、戦争ほど非現実的なことはないと分かっているのに。絵本の中の若い兵士の顔を見ながら考えている。