書評

『変愛小説集』(講談社)

  • 2017/07/01
変愛小説集 / 岸本佐知子(編訳)
変愛小説集
  • 著者:岸本佐知子(編訳)
  • 出版社:講談社
  • 装丁:単行本(288ページ)
  • 発売日:2008-05-07
  • ISBN:4062145448
内容紹介:
現代英米文学のなかから、変愛かつ純愛小説を集めたアンソロジー。
トヨザキ的評価軸:
◎「金の斧(親を質に入れても買って読め)」
「銀の斧(図書館で借りられたら読めば―)」
「鉄の斧(ブックオフで100円で売っていても読むべからず)」

ヘンテコリンな物語ばかりの個性的なアンソロジー

好んで訳すのは、作家になってなかったらどうなっちゃってたんだろうと心配になる人と、これは書いても仕方ないとか書いちゃいけないっていうリミッターが一切ない人。翻訳家・岸本佐知子のそんな発言を読んだことがあります。前者の代表が『灯台守の話』(白水社)のジャネット・ウィンターソン、後者の代表が『中二階』(白水社)のニコルソン・ベイカーでしょうか。でも、そのふたつの条件を同時に満たすのが実は岸本さん自身だということは、傑作エッセイ集『気になる部分』(白水社)や『ねにもつタイプ』を読めば歴然。というわけで、そんな人が編んだ本ですから、「愛」をテーマにしていたって韓流ドラマみたいなべタ甘な物語なぞ入ってこようはずがありません。これは『変愛小説集』というタイトルそのままに、ヘンテコリンな物語ばかり十一篇が収められた、すっごく個性的なアンソロジーなんです。

本に恋をしてしまう女性の話(アリ・スミス「五月」)。皮膚が宇宙服になっていき、最後には宇宙へ飛び立ってしまう奇病にかかった妻を何とか地上に留まらせようとする男の話(レイ・ヴクサヴィッチ「僕らが天王星に着くころ」)。芝刈りに来たティーンエイジャーの男の子に恋をしてまるごと呑み込んでしまう人妻の話(ジュリア・スラヴィン「まる呑み」)。妹のバービー人形と交際する男子の話(A・M・ホームズ「リアル・ドール」)。といった、こんな粗雑な要約じゃまったく何も説明したことにはならない、読む人から驚きや爆笑、怖れ、呆然、哀しみといったさまざまな反応を引き出す奇想天外な物語ばかり収録されているのです。

なかでも、わたしがもっとも心惹かれる一篇が、スコット・スナイダーの「ブルー・ヨーデル」です。蝋人形館で人形に混じってポーズをとる仕事に就いていたクレアと出会い、やがて彼女を愛するようになった孤独な青年プレス。ところがフィアンセであり、たった一人の友だちでもあったクレアが、ある日いなくなってしまうのです。プレスは〈きっと僕が迎えに来るのを待っているはずだ。絶対に〉と思いつめ、彼女が乗っている(はずの)飛行船をどこまでもどこまでも追いかけていくようになります。でも――。

この物語の中には、人を追いつめずにはおかないほどの愛、心の目を曇らせ、本当のことを見えなくしてしまうほどの愛を描いて、もの悲しくも不穏な気配があります。そしてその気配は、どんな愛だって端から見れば歪な形をしていることを人に思い知らせるのです。この一篇だけでも定価一九九五円の価値あり。私は嘘をつきません。 

灯台守の話  / ジャネット ウィンターソン
灯台守の話
  • 著者:ジャネット ウィンターソン
  • 出版社:白水社
  • 装丁:新書(259ページ)
  • 発売日:2011-08-09
  • ISBN:4560071756

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中二階 / ニコルソン ベイカー
中二階
  • 著者:ニコルソン ベイカー
  • 出版社:白水社
  • 装丁:新書(197ページ)
  • 発売日:1997-10-01
  • ISBN:4560071225
内容紹介:
中二階のオフィスに戻る途中のサラリーマンがめぐらす超ミクロ的考察―靴紐はなぜ左右同時期に切れるのか、牛乳容器が瓶からカートンに変わったときの感激、ミシン目の発明者への熱狂的賛辞等々。これまで誰も書かなかったとても愉快ですごーく細かい注付き小説。

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ねにもつタイプ  / 岸本 佐知子
ねにもつタイプ
  • 著者:岸本 佐知子
  • 出版社:筑摩書房
  • 装丁:文庫(227ページ)
  • 発売日:2010-01-06
  • ISBN:4480426736
内容紹介:
コアラの鼻の材質。郵便局での決闘。ちょんまげの起源。新たなるオリンピック競技の提案。「ホッホグルグル」の謎。パン屋さんとの文通。矢吹ジョーの口から出るものの正体。「猫マッサージ屋」開業の野望。バンドエイドとの正しい闘い方-。奇想、妄想たくましく、リズミカルな名文で綴るエッセイ集。読んでも一ミクロンの役にも立たず、教養もいっさい増えないこと請け合いです。

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気になる部分  / 岸本 佐知子
気になる部分
  • 著者:岸本 佐知子
  • 出版社:白水社
  • 装丁:新書(207ページ)
  • 発売日:2006-05-01
  • ISBN:4560720878
内容紹介:
眠れぬ夜の「ひとり尻取り」、満員電車のキテレツさん達、屈辱の幼稚園時代-ヘンでせつない日常を強烈なユーモアとはじける言語センスで綴った、名翻訳家による抱腹絶倒のエッセイ集。待望のUブックス化。

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【この書評が収録されている書籍】
正直書評。 / 豊崎 由美
正直書評。
  • 著者:豊崎 由美
  • 出版社:学習研究社
  • 装丁:単行本(228ページ)
  • 発売日:2008-10-00
  • ISBN:4054038727
内容紹介:
親を質に入れても買って読め!図書館で借りられたら読めばー?ブックオフで100円で売っていても読むべからず?!ベストセラーや名作、人気作家の話題作に、金、銀、鉄、3本の斧が振り下ろされる。

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変愛小説集 / 岸本佐知子(編訳)
変愛小説集
  • 著者:岸本佐知子(編訳)
  • 出版社:講談社
  • 装丁:単行本(288ページ)
  • 発売日:2008-05-07
  • ISBN:4062145448
内容紹介:
現代英米文学のなかから、変愛かつ純愛小説を集めたアンソロジー。

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初出メディア

TV Bros.

TV Bros. 2008年6月21日号

多彩な連載陣のコラムが人気のポップカルチャーTV情報誌。豊﨑由美氏の書評コーナー「帝王切開金の斧」が好評連載中。

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