書評
『人は思い出にのみ嫉妬する』(光文社)
トヨザキ的評価軸:
「金の斧(親を質に入れても買って読め)」
「銀の斧(図書館で借りられたら読めば―)」
◎「鉄の斧(ブックオフで100円で売っていても読むべからず)」
皆さん、お楽しみいただけてますか。これが芥川賞作家の名文でございます。辻仁成『人は思い出にのみ嫉妬する』。この小説のバカバカしさをどうしたらお伝えできるのか。やはり引用が一番でございましょう。
こういう記述の仕方がお茶目でお酒落だと思ってる辻仁成さんは、二〇〇七年現在四十八歳、フランス在住。中山美穂の亭主です。
で、ですね。水アレルギーという〈特殊な体質〉を持ちながら浄水器販売会社に勤めるこの栞が、ずっと想いを寄せていた水質学者の戸田とつきあうようになるんですけど、戸田の死んだ恋人で自分の親友でもあった女性の思い出には勝てないと自滅。彼を忘れるために上海に渡った栞は、年下のピアニストに惚れられつきあうようになります。ところが栞を追いかけ上海にきた戸田は、その事実を知ってショックを受け、交通事故に遭った挙げ句、植物人間に! 栞は眠り続ける戸田に、二人の間にありえたかもしれない幸福な人生を語りかけ――。
こんなケータイ小説並みに陳腐な物語では“文学”にはならないという自覚があったのでしょうか。辻さんはこの作品全体が栞の友人で、彼女の恋愛を近くから見守ってきた年上の女性〈カタリテ〉が書いた小説だという仕掛けを施しています。で、そのカタリテとやらによる「後書き」にこうあるんですの。
これは一体どうしたことでしょう。”拙い文章”になっているのは、素人の女性が書いた小説だからなんだよー。僕自身はホントはもっと上手なのにー。わざとヘタに書いてみたのー。そういう言い訳なんでしょうか。芥川賞作家がこんな姑息な手を……。〈また機会があれば何かを書かせてください〉はカタリテというよりは辻仁成の魂の叫び? なんかいろんな意味痛い小説というより他ありません。フランスに向かって、合掌。
【この書評が収録されている書籍】
「金の斧(親を質に入れても買って読め)」
「銀の斧(図書館で借りられたら読めば―)」
◎「鉄の斧(ブックオフで100円で売っていても読むべからず)」
いろんな意味で痛い、芥川賞作家の名文でごさいます
その時、栞は処女ではなかったが、でも恋に関しては処女のようなもの〉〈愛しすぎたことが、愛していなかったことであること〉〈眠れぬ夜、栞は目を擦りながら、滲む月の輪郭をなぞる。/そこに月があるのに、月の縁はいつもぼやけている。/まるで誰かの心模様……
皆さん、お楽しみいただけてますか。これが芥川賞作家の名文でございます。辻仁成『人は思い出にのみ嫉妬する』。この小説のバカバカしさをどうしたらお伝えできるのか。やはり引用が一番でございましょう。
栞は三十歳になったばかり。でも実年齢よりは、その落ち着いた物腰からか、ずっと上に見える。人種はアジア-モンゴロイドの系譜に属し、乳児の頃にはモンゴロイド特有の蒙古斑が臀部にあった。外見や雰囲気は普通のOLだったが、身体的に普通ではない特殊な体質を持っていた。
こういう記述の仕方がお茶目でお酒落だと思ってる辻仁成さんは、二〇〇七年現在四十八歳、フランス在住。中山美穂の亭主です。
で、ですね。水アレルギーという〈特殊な体質〉を持ちながら浄水器販売会社に勤めるこの栞が、ずっと想いを寄せていた水質学者の戸田とつきあうようになるんですけど、戸田の死んだ恋人で自分の親友でもあった女性の思い出には勝てないと自滅。彼を忘れるために上海に渡った栞は、年下のピアニストに惚れられつきあうようになります。ところが栞を追いかけ上海にきた戸田は、その事実を知ってショックを受け、交通事故に遭った挙げ句、植物人間に! 栞は眠り続ける戸田に、二人の間にありえたかもしれない幸福な人生を語りかけ――。
こんなケータイ小説並みに陳腐な物語では“文学”にはならないという自覚があったのでしょうか。辻さんはこの作品全体が栞の友人で、彼女の恋愛を近くから見守ってきた年上の女性〈カタリテ〉が書いた小説だという仕掛けを施しています。で、そのカタリテとやらによる「後書き」にこうあるんですの。
私のこの拙い文章をこうやって印刷物として出版してくださった、勇気ある出版社の方々にこの場を借りてお礼を申し上げなければなりません。
これは一体どうしたことでしょう。”拙い文章”になっているのは、素人の女性が書いた小説だからなんだよー。僕自身はホントはもっと上手なのにー。わざとヘタに書いてみたのー。そういう言い訳なんでしょうか。芥川賞作家がこんな姑息な手を……。〈また機会があれば何かを書かせてください〉はカタリテというよりは辻仁成の魂の叫び? なんかいろんな意味痛い小説というより他ありません。フランスに向かって、合掌。
【この書評が収録されている書籍】
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