書評
『ヘンリーの悪行リスト』(新潮社)
トヨザキ的評価軸:
「金の斧(親を質に入れても買って読め)」
「銀の斧(図書館で借りられたら読めば―)」
「鉄の斧(ブックオフで100円で売っていても読むべからず)」
あまりに陳腐。この前提だけで、まともな本好きなら読む気が萎えるに違いありません。でも、帯に「爆笑必至 感涙保証」ってあるから、とりあえず読み進めていくわけだすわね? だすわよ。したら、ある出来事から良心を取り戻したヘンリーが泥酔して自殺をはかる、と。それを救うのがホテルのメイド・ソフィー。彼女に諭されて、ヘンリーはこれまでに自分が傷つけてきた人たちに懺悔することを決意。その旅の一部始終を描いた小説なんですの。
気のいい兄ちゃんがフラられて最低野郎に変貌しながらも、最後はハートウォーミングな読み心地に落とすという十把一絡げで二束三文な物語をかろうじて救っているのが、ソフィーの存在。主人公にアドバイスや勇気を与える、彼女の造型にはひねりがあります。ヘンリーにまつわるプロットだけで展開していたら薄っぺらな話にしかならなかっただろうけど、そこにソフィーの意外な素性をめぐる物語が寄り添うことで、何とか小説としての体をなしているんです。んがっ、それ以外の人物は、みぃーんな書き割り的。そんな浅かねえだろう、人間は。そんな都合よく動かねえだろう、人の気持ちってやつは。やたら粗雑な人間観の披瀝に、イヤんなっちゃったんであります。さくさく読めるだけのエンタメが好きな方にはおすすめできるけど、根性が曲がりがちかと見受けられる「ブロス」愛読者には不向きかと。ところで、わたくし、感涙なんて一滴たりとも流れなかったんですけど、新潮文庫さんはそれをどう“保証”なさって下さるのかしら?
かしらっ?
【この書評が収録されている書籍】
「金の斧(親を質に入れても買って読め)」
「銀の斧(図書館で借りられたら読めば―)」
「鉄の斧(ブックオフで100円で売っていても読むべからず)」
陳腐で薄っぺらな物語をかろうじて救っているのは……
いや、鉄の斧ってほどじゃないんですよ。こういうのが好きな人もいるとは思うんですよ。けどなあ……。主人公のヘンリーは「暗殺者」という異名がつけられるほど冷徹なヤング・エグゼグティブ。企業乗っ取りや買収を成功させ、弱者を踏みつけにすることで金持ちのイコンたる贅沢なら何でもかなえてきた男なんであります。では、なぜそんな冷酷非情な人間になったのか。それは、失恋。貧しい家庭で育った高校時代のヘンリーはとってもいいヤツだったのね。でも、高嶺の花のお嬢様・エリザベスに恋をして、卒業パーティのパートナーになってはもらえたものの、初体験も果たしたその帰り、住む世界が違いすぎるから交際を続けられないってフラれてしまうんです。そこからのヘンリーは、お宮に裏切られた『金色夜叉』(新潮文庫など)の貫一のごとくルサンチマンの塊。エリザベスを見返すため、周囲の人間を利用するだけ利用して今の地位にのし上がった、そういう次第なんでございます。あまりに陳腐。この前提だけで、まともな本好きなら読む気が萎えるに違いありません。でも、帯に「爆笑必至 感涙保証」ってあるから、とりあえず読み進めていくわけだすわね? だすわよ。したら、ある出来事から良心を取り戻したヘンリーが泥酔して自殺をはかる、と。それを救うのがホテルのメイド・ソフィー。彼女に諭されて、ヘンリーはこれまでに自分が傷つけてきた人たちに懺悔することを決意。その旅の一部始終を描いた小説なんですの。
気のいい兄ちゃんがフラられて最低野郎に変貌しながらも、最後はハートウォーミングな読み心地に落とすという十把一絡げで二束三文な物語をかろうじて救っているのが、ソフィーの存在。主人公にアドバイスや勇気を与える、彼女の造型にはひねりがあります。ヘンリーにまつわるプロットだけで展開していたら薄っぺらな話にしかならなかっただろうけど、そこにソフィーの意外な素性をめぐる物語が寄り添うことで、何とか小説としての体をなしているんです。んがっ、それ以外の人物は、みぃーんな書き割り的。そんな浅かねえだろう、人間は。そんな都合よく動かねえだろう、人の気持ちってやつは。やたら粗雑な人間観の披瀝に、イヤんなっちゃったんであります。さくさく読めるだけのエンタメが好きな方にはおすすめできるけど、根性が曲がりがちかと見受けられる「ブロス」愛読者には不向きかと。ところで、わたくし、感涙なんて一滴たりとも流れなかったんですけど、新潮文庫さんはそれをどう“保証”なさって下さるのかしら?
かしらっ?
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