書評

『鈍感力』(集英社)

  • 2017/07/07
鈍感力 / 渡辺 淳一
鈍感力
  • 著者:渡辺 淳一
  • 出版社:集英社
  • 装丁:単行本(235ページ)
  • 発売日:2007-02-05
  • ISBN-10:408781372X
  • ISBN-13:978-4087813722
内容紹介:
今を生き抜く新しい知恵。渡辺流!男と女の人生講座。
トヨザキ的評価軸:
「金の斧(親を質に入れても買って読め)」
「銀の斧(図書館で借りられたら読めば―)」
「鉄の斧(ブックオフで100円で売っていても読むべからず)」

さすが“鈍感力”のジュンちゃん。わけがわかりません

安倍内閣の支持率低迷を受けて、小泉純一郎前首相が放った「鈍感力が大事だ。支持率は上がったり下がったりするんだから、いちいち気にするな」という言葉で、渡辺淳一センセイの『鈍感力』の売れ行きが倍増。こんな時ですよ、東京都知事選に立候補した外山恒一(政見放送必見。YouTubeで即検索!)に一票を投じたくなるのは。ほんとに、世の中の多数派なんかクソよ、クソ。『鈍感力』なんつー本を買って読んで、あまつさえ感心してるウン十万人なんかウンコまみれになっちゃえ。

こんな本を出すだけあって、著者自身も鈍感力の塊です。かつてジュンちゃんはブログで、こんな論旨のエッセイを発表しました。新幹線を自由席で利用しようとしたら満席だったので、空いてる指定席に移ったら車掌に見とがめられた、と。仕方なくグリーン車に移ったら、そこでもまただめだと言われた、と。そこで一言。「最近の車掌さんは融通がきかなくて困る」……買えよっ。金持ちなんだから、指定席券くらい買えよっ!

で、ここには本人曰く〈素敵な鈍感力〉が、どれだけ人生を豊かにするかってことが書いてあるんですの。鈍感力さえあれば才能は開花し、血液さらさらで病気にもならず、癌にもかかりにくく、〈素敵なハンター〉となって異性のハートをつかむことができ、結婚生活は安泰で、国際社会に通用する人間になれます、そう書いてあるんですの。ところが、その鈍感力を讃えるための例証が幼稚くせえったら。

たとえば、同じものを食べたのに、鈍い腸のおかげで下痢をしなかった男と再会する場面。〈この男だ、あのとき腐ったものを食べても下痢しなかったやつ〉〈相変らず堂々として屈託なく、どこか素敵で鈍そうでした〉〈それこそ環境衛生が最悪になり、多くの人が下痢や伝染病で亡くなるときも、彼だけはしぶとく生き続けるのではないか〉……こんな褒められ方はヤッ。あと、母親が人前で授乳できるのは鈍感だからと感嘆し、〈なぜなら、人前で乳房を見せる女性なぞ、まず見かけることはありません。かなり軽薄な女性でも、海辺でさえブラジャーは着けています〉……海辺でブラジャー? わけがわかりません。

しかし、そうはいっても小説よりはなんぼかマシ、なんて皮肉をかまされても「自分の才能に対する嫉妬だから、気にしない」と聞き流すのが鈍感力らしいので、御大は気にもなさいますまい。アレッ、じゃあ、文藝春秋の某雑誌をリニューアルに追い込んだ時は、まだ備わってなかったってこと? 付け焼き刃なんじゃん、鈍感力。

【この書評が収録されている書籍】
正直書評。 / 豊崎 由美
正直書評。
  • 著者:豊崎 由美
  • 出版社:学習研究社
  • 装丁:単行本(228ページ)
  • 発売日:2008-10-00
  • ISBN-10:4054038727
  • ISBN-13:978-4054038721
内容紹介:
親を質に入れても買って読め!図書館で借りられたら読めばー?ブックオフで100円で売っていても読むべからず?!ベストセラーや名作、人気作家の話題作に、金、銀、鉄、3本の斧が振り下ろされる。

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鈍感力 / 渡辺 淳一
鈍感力
  • 著者:渡辺 淳一
  • 出版社:集英社
  • 装丁:単行本(235ページ)
  • 発売日:2007-02-05
  • ISBN-10:408781372X
  • ISBN-13:978-4087813722
内容紹介:
今を生き抜く新しい知恵。渡辺流!男と女の人生講座。

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初出メディア

TV Bros.

TV Bros. 2007年4月14日

多彩な連載陣のコラムが人気のポップカルチャーTV情報誌。豊﨑由美氏の書評コーナー「帝王切開金の斧」が好評連載中。

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