書評
『愛の流刑地』(幻冬舎)
トヨザキ的評価軸:
「金の斧(親を質に入れても買って読め)」
「銀の斧(図書館で借りられたら読めば―)」
「鉄の斧(ブックオフで100円で売っていても読むべからず)」
かつてはベストセラーを飛ばしたものの、この十年間ほどは新作を発表することもなく、週刊誌のアンカーや大学講師の仕事で糊口をしのいでいる五十五歳の菊治と、三十代で三人の子持ちの人妻・冬香が出会い、愛しあうようになり、やがてセックスの最中に首を締めるプレイの果てに、菊治が冬香を死に至らしめる、ただそれだけの話。
が、中年男女のヤリまくり小説『失楽園』の作者ですもの、今回も男子の股間を盛り上げ、セックスレスで悶々とする主婦の下半身を疼かせる手練手管に関しては、呆れけえっちまうほど長けてる……つーか、偏執的なんですの。なんと上巻の四分の一強が性描写。うしろから前から横から上から下から、あらゆる体位を試しているのはもちろん、シックスナイン、ワカメ酒、テレフォンセックスと何でもござい。性技の国際見本市といっても過言ではございません。
そうしたねっとりべたべたしたセックスに溺れる一方で、冬香に出す携帯メールの最後には、必ずハートマークを添える菊治。ジュンちゃん、『失楽園』当時と比べると新しいことも覚えたらしく、セックスの最中、冬香に「すごおい」なんてフレーズを連発させてもいます。「すごおい」、援助交際で女子高生にでも教えてもらったのでしょうか。ちょいキモです。ちょいイタです。キモイタおやじです。
と同時に、『失楽園』におけるお笑いネタも残してるのが、ジュンちゃんの豊かなサービス精神を物語っておりましょう。『失楽園』で、主人公男女に自分たちを〈愛のエリート〉と言わしめたジュンちゃんは、ここでも〈愛の仕置き〉〈恋の許可証〉〈愛の暴力団〉など、素敵なキャッチコピーを連発。失楽園名物〈まさしく〉の連呼も健在です。〈いままさしく二人は合体している〉〈まさしく、言葉は愛の潤滑油である。「ふゆか」と呼べば「あなた」と答える〉。知能指数の低い文章の波状攻撃で、読者を失笑の渦に巻き込む渡辺淳一先生。物書きとして、この姿勢は見習わねばなりますまい。(次回に続く)。
【この書評が収録されている書籍】
「金の斧(親を質に入れても買って読め)」
「銀の斧(図書館で借りられたら読めば―)」
「鉄の斧(ブックオフで100円で売っていても読むべからず)」
前編 ジュンちゃん入魂の大作。偏執的に描かれた性技の国際見本市!
わたくしが『失楽園』(角川文庫)をけなしたせいでジュンちゃんが怒鳴り込み、雑誌「TITLE」が全面リニューアルされてから幾星霜。日本経済新聞で連載されていた、この通称「愛ルケ」がこうして単行本にまとめられる日を、どれほど手ぐすね引いて待っていたか。というわけで前後篇、二回にわたって、この作品の魅力を皆さんにお伝えする所存なんですの。まず、総ぺージ七百十六ページにも及ぶ、ジュンちゃん入魂の大作の粗筋から触れてまいりましょう。かつてはベストセラーを飛ばしたものの、この十年間ほどは新作を発表することもなく、週刊誌のアンカーや大学講師の仕事で糊口をしのいでいる五十五歳の菊治と、三十代で三人の子持ちの人妻・冬香が出会い、愛しあうようになり、やがてセックスの最中に首を締めるプレイの果てに、菊治が冬香を死に至らしめる、ただそれだけの話。
が、中年男女のヤリまくり小説『失楽園』の作者ですもの、今回も男子の股間を盛り上げ、セックスレスで悶々とする主婦の下半身を疼かせる手練手管に関しては、呆れけえっちまうほど長けてる……つーか、偏執的なんですの。なんと上巻の四分の一強が性描写。うしろから前から横から上から下から、あらゆる体位を試しているのはもちろん、シックスナイン、ワカメ酒、テレフォンセックスと何でもござい。性技の国際見本市といっても過言ではございません。
そうしたねっとりべたべたしたセックスに溺れる一方で、冬香に出す携帯メールの最後には、必ずハートマークを添える菊治。ジュンちゃん、『失楽園』当時と比べると新しいことも覚えたらしく、セックスの最中、冬香に「すごおい」なんてフレーズを連発させてもいます。「すごおい」、援助交際で女子高生にでも教えてもらったのでしょうか。ちょいキモです。ちょいイタです。キモイタおやじです。
と同時に、『失楽園』におけるお笑いネタも残してるのが、ジュンちゃんの豊かなサービス精神を物語っておりましょう。『失楽園』で、主人公男女に自分たちを〈愛のエリート〉と言わしめたジュンちゃんは、ここでも〈愛の仕置き〉〈恋の許可証〉〈愛の暴力団〉など、素敵なキャッチコピーを連発。失楽園名物〈まさしく〉の連呼も健在です。〈いままさしく二人は合体している〉〈まさしく、言葉は愛の潤滑油である。「ふゆか」と呼べば「あなた」と答える〉。知能指数の低い文章の波状攻撃で、読者を失笑の渦に巻き込む渡辺淳一先生。物書きとして、この姿勢は見習わねばなりますまい。(次回に続く)。
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