書評

『愛の流刑地』(幻冬舎)

  • 2017/08/14
愛の流刑地〈上〉 / 渡辺 淳一
愛の流刑地〈上〉
  • 著者:渡辺 淳一
  • 出版社:幻冬舎
  • 装丁:文庫(454ページ)
  • 発売日:2007-08-01
  • ISBN-10:4344410041
  • ISBN-13:978-4344410046
内容紹介:
かつて一世を風靡した作家・村尾菊治は、旅先で女性編集者から彼の大ファンという人妻・入江冬香を紹介される。そのしなやかな容姿と控えめな性格に魅了された菊治。二人は狂おしく逢瀬を重ね、惹かれ合うが、貪欲に性愛の頂きへ昇りつめる冬香に、菊治は次第に不安を覚える。男女のエロスの深淵に肉薄し話題騒然となった問題作。待望の文庫化。
トヨザキ的評価軸:
「金の斧(親を質に入れても買って読め)」
「銀の斧(図書館で借りられたら読めば―)」
◎「鉄の斧(ブックオフで100円で売っていても読むべからず)」

愛ルケ評後篇! 自己愛だだ漏れの陳腐な台詞に脱力

前回から続き、渡辺淳一『愛の流刑地』を取り上げますが、ただ引用するだけで、批判的な文章を添えずともダメさ加減を露呈してくれるのが、この小説唯一の美点なんですの。というわけで、皆さんがあえてこの低劣な小説を読まなくても読んだ気になれますよう、とびっきりの名場面を『愛ルケ』の中から拾ってきて差し上げますわね。

まず、菊治の下着へのこだわりから笑ってまいりましょう。菊治は、白いスリップが大好き。

それ以外は許しません。冬香がキャミソールを着用に及べば、〈それ、あまり好きじゃない〉。

ショーツなんかつけていようものなら、〈下はなにも穿かないように、といったろう〉とお怒りです。でもって〈お仕置き〉と称して、冬香の股間にブランディを注いでワカメ酒と洒落こむ菊治。「すごおい」と歓ぶ冬香。バカップルのお手本です。

そんな性技見本市男ですもの、花火大会をマンション屋上から眺めた後だって、工夫は欠かしません。〈ならば、花火のように打ち上げてやろうか〉ときて、挿入後、冬香を上に乗せるスタイルを取り、〈前後に、そして上下にと、それは女の側からみれば、夜空に打ち上げられる花火に似て、いきなり下から「どどん」と突き上げられ、前後に揺すられるのと変らない〉と悦に入り、冬香の〈狼狽えぶりが可愛くて、菊治はさらに二の矢、三の矢と花火を打ち続け〉るんですの。どどん。何だかとっても楽しそうです。で、この後ついに菊治は冬香の首を絞め、殺害に及んでしまうわけですが、死亡を確認した後の行動がまた可笑しいんですの。〈蘇生を信じながら菊治は懸命に舐める。両の乳房から脇腹を、そしてお膀から下腹へ、菊治は舌が痺れて抜けるまで舐めまわす〉って、お前は山岳救助犬かっ!?

逮捕以降も、菊治の性欲は衰えません。冬香の幻影に話しかけながらオナニーに励み、相手に首を絞めてと頼まれたからとはいえ〈あまりに短絡的で、幼稚な行為といわざるをえません〉と、まっとうな論告を行う女性検事を恨んで、レイプする様を想像しながら自慰に及ぶ菊治五十六歳、お盛んです。で、こんな面白Hシーン満載なだけが取り柄の小説を上下巻も読まされた末の結論が、これ。

ふゆか、俺はこの流刑地にいるよ、だって此処は狂ったほどおまえを愛して、死ぬほど女を快くした男だけに与えられた、愛の流刑地だから。

この自己愛だだ漏れの陳腐な台詞に、脱力しない読者はおりますまい。でも、この先誰もアナタの小説を読まなくなったって、オデだけは読んだげる。相手になったげる、愛の流刑地で。

【この書評が収録されている書籍】
正直書評。 / 豊崎 由美
正直書評。
  • 著者:豊崎 由美
  • 出版社:学習研究社
  • 装丁:単行本(228ページ)
  • 発売日:2008-10-00
  • ISBN-10:4054038727
  • ISBN-13:978-4054038721
内容紹介:
親を質に入れても買って読め!図書館で借りられたら読めばー?ブックオフで100円で売っていても読むべからず?!ベストセラーや名作、人気作家の話題作に、金、銀、鉄、3本の斧が振り下ろされる。

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。

愛の流刑地〈上〉 / 渡辺 淳一
愛の流刑地〈上〉
  • 著者:渡辺 淳一
  • 出版社:幻冬舎
  • 装丁:文庫(454ページ)
  • 発売日:2007-08-01
  • ISBN-10:4344410041
  • ISBN-13:978-4344410046
内容紹介:
かつて一世を風靡した作家・村尾菊治は、旅先で女性編集者から彼の大ファンという人妻・入江冬香を紹介される。そのしなやかな容姿と控えめな性格に魅了された菊治。二人は狂おしく逢瀬を重ね、惹かれ合うが、貪欲に性愛の頂きへ昇りつめる冬香に、菊治は次第に不安を覚える。男女のエロスの深淵に肉薄し話題騒然となった問題作。待望の文庫化。

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初出メディア

TV Bros.

TV Bros. 2006年8月5日

多彩な連載陣のコラムが人気のポップカルチャーTV情報誌。豊﨑由美氏の書評コーナー「帝王切開金の斧」が好評連載中。

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