書評
『愛の流刑地』(幻冬舎)
トヨザキ的評価軸:
「金の斧(親を質に入れても買って読め)」
「銀の斧(図書館で借りられたら読めば―)」
◎「鉄の斧(ブックオフで100円で売っていても読むべからず)」
まず、菊治の下着へのこだわりから笑ってまいりましょう。菊治は、白いスリップが大好き。
それ以外は許しません。冬香がキャミソールを着用に及べば、〈それ、あまり好きじゃない〉。
ショーツなんかつけていようものなら、〈下はなにも穿かないように、といったろう〉とお怒りです。でもって〈お仕置き〉と称して、冬香の股間にブランディを注いでワカメ酒と洒落こむ菊治。「すごおい」と歓ぶ冬香。バカップルのお手本です。
そんな性技見本市男ですもの、花火大会をマンション屋上から眺めた後だって、工夫は欠かしません。〈ならば、花火のように打ち上げてやろうか〉ときて、挿入後、冬香を上に乗せるスタイルを取り、〈前後に、そして上下にと、それは女の側からみれば、夜空に打ち上げられる花火に似て、いきなり下から「どどん」と突き上げられ、前後に揺すられるのと変らない〉と悦に入り、冬香の〈狼狽えぶりが可愛くて、菊治はさらに二の矢、三の矢と花火を打ち続け〉るんですの。どどん。何だかとっても楽しそうです。で、この後ついに菊治は冬香の首を絞め、殺害に及んでしまうわけですが、死亡を確認した後の行動がまた可笑しいんですの。〈蘇生を信じながら菊治は懸命に舐める。両の乳房から脇腹を、そしてお膀から下腹へ、菊治は舌が痺れて抜けるまで舐めまわす〉って、お前は山岳救助犬かっ!?
逮捕以降も、菊治の性欲は衰えません。冬香の幻影に話しかけながらオナニーに励み、相手に首を絞めてと頼まれたからとはいえ〈あまりに短絡的で、幼稚な行為といわざるをえません〉と、まっとうな論告を行う女性検事を恨んで、レイプする様を想像しながら自慰に及ぶ菊治五十六歳、お盛んです。で、こんな面白Hシーン満載なだけが取り柄の小説を上下巻も読まされた末の結論が、これ。
この自己愛だだ漏れの陳腐な台詞に、脱力しない読者はおりますまい。でも、この先誰もアナタの小説を読まなくなったって、オデだけは読んだげる。相手になったげる、愛の流刑地で。
【この書評が収録されている書籍】
「金の斧(親を質に入れても買って読め)」
「銀の斧(図書館で借りられたら読めば―)」
◎「鉄の斧(ブックオフで100円で売っていても読むべからず)」
愛ルケ評後篇! 自己愛だだ漏れの陳腐な台詞に脱力
前回から続き、渡辺淳一『愛の流刑地』を取り上げますが、ただ引用するだけで、批判的な文章を添えずともダメさ加減を露呈してくれるのが、この小説唯一の美点なんですの。というわけで、皆さんがあえてこの低劣な小説を読まなくても読んだ気になれますよう、とびっきりの名場面を『愛ルケ』の中から拾ってきて差し上げますわね。まず、菊治の下着へのこだわりから笑ってまいりましょう。菊治は、白いスリップが大好き。
それ以外は許しません。冬香がキャミソールを着用に及べば、〈それ、あまり好きじゃない〉。
ショーツなんかつけていようものなら、〈下はなにも穿かないように、といったろう〉とお怒りです。でもって〈お仕置き〉と称して、冬香の股間にブランディを注いでワカメ酒と洒落こむ菊治。「すごおい」と歓ぶ冬香。バカップルのお手本です。
そんな性技見本市男ですもの、花火大会をマンション屋上から眺めた後だって、工夫は欠かしません。〈ならば、花火のように打ち上げてやろうか〉ときて、挿入後、冬香を上に乗せるスタイルを取り、〈前後に、そして上下にと、それは女の側からみれば、夜空に打ち上げられる花火に似て、いきなり下から「どどん」と突き上げられ、前後に揺すられるのと変らない〉と悦に入り、冬香の〈狼狽えぶりが可愛くて、菊治はさらに二の矢、三の矢と花火を打ち続け〉るんですの。どどん。何だかとっても楽しそうです。で、この後ついに菊治は冬香の首を絞め、殺害に及んでしまうわけですが、死亡を確認した後の行動がまた可笑しいんですの。〈蘇生を信じながら菊治は懸命に舐める。両の乳房から脇腹を、そしてお膀から下腹へ、菊治は舌が痺れて抜けるまで舐めまわす〉って、お前は山岳救助犬かっ!?
逮捕以降も、菊治の性欲は衰えません。冬香の幻影に話しかけながらオナニーに励み、相手に首を絞めてと頼まれたからとはいえ〈あまりに短絡的で、幼稚な行為といわざるをえません〉と、まっとうな論告を行う女性検事を恨んで、レイプする様を想像しながら自慰に及ぶ菊治五十六歳、お盛んです。で、こんな面白Hシーン満載なだけが取り柄の小説を上下巻も読まされた末の結論が、これ。
ふゆか、俺はこの流刑地にいるよ、だって此処は狂ったほどおまえを愛して、死ぬほど女を快くした男だけに与えられた、愛の流刑地だから。
この自己愛だだ漏れの陳腐な台詞に、脱力しない読者はおりますまい。でも、この先誰もアナタの小説を読まなくなったって、オデだけは読んだげる。相手になったげる、愛の流刑地で。
【この書評が収録されている書籍】
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