マツダ快進撃の秘密 現場の声で浮き彫り
世界の自動車市場でのシェアはたったの2%。にもかかわらず、ファンの心をがっちりつかみ、好業績をたたき出す。特異な自動車メーカー、マツダの第一線にいるリーダーへのインタビュー集である。著者の熱く率直な姿勢がいい。ぐいぐいと核心に迫る質問がマツダの独自な美点を浮き彫りにしていく。過去のマツダはあるモデルがヒットするとなりふり構わぬ販売攻勢に出たり、やみくもに販売チャンネルを拡大するなど「売る」ことにきゅうきゅうとしていた。しかし、ヒット車も熱が冷めてしまうと、在庫の山が残るばかり。ディーラーへの押し付けとそれが招く大安売りに明け暮れた。復活したマツダは「売る」ではなく顧客に「選び続けてもらう」ことを優先する。「クルマは決してシェアじゃない。お客さまとの関係の深さですよ」「シェア2%ぐらいの会社は好きなことをやっていれば大丈夫」。小さいことを恥じず、むしろ強みとしている。
コンセプトが明確である。言葉にすれば当たり前のように聞こえるが、「運転する楽しさ」こそをクルマの価値と定義し、すべてに優先させる。性能や乗り心地からデザインまで、大手メーカーとは一味違う。ここに差別化の根本がある。燃費よりも楽しさを優先する。コンマ何キロの燃費の数値競争から距離を置く。
「あのクルマは本当にいい!」競合他社のクルマでもそれが本当に優れていれば素直に認める。認めるだけでなくべタ褒めする。実に品がいい。爽やかである。これもクルマ造りに明確な価値の基準があるからだ。
走る喜びの重視はうそではない。それが証拠に、日本カー・オブ・ザ・イヤーを受賞した現行の「ロードスター」は前のモデルよりも馬力は小さく、サーキットでのタイムも遅くなっている。運転したときの気持ち良さや伸びの良さといった数値化できない「乗り味」を追求した結果だ。
こうした成功の背後には、規模のハンディを乗り越える超フレキシブルな生産革新がある。低コストの汎用(はんよう)機を使って設備コストを低減し、さまざまな工夫によって稼働率を上げていく「変種変量方式」の生産ラインを取材した章は圧巻だ。
長期低迷に苦しむ日本の家電メーカーの人々にこの本を読んでもらいたい。「クルマとエレキは違うよ」と言うかもしれない。しかし、マツダの思想と戦略から学ぶべきことは大きいはずだ。本書には、日本のもの造りが忘れていたこと、そして、これからも忘れてはいけないことが詰まっている。